「土壌有機物中の炭素の消失により無機化された窒素からのN2O排出」の新たな算定法

タイトル 「土壌有機物中の炭素の消失により無機化された窒素からのN2O排出」の新たな算定法
担当機関 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 農環研
研究期間 2016~2021
研究担当者 岸本文紅
高田裕介
白戸康人
発行年度 2021
要約 土壌炭素動態モデルRothCの全国計算システム、土壌のC/N比、N2O統計モデルないしIPCCのデフォルト排出係数を組み合わせることで、温室効果ガスインベントリ報告における「土壌有機物中の炭素の消失により無機化された窒素からのN2O排出」を算出することができる。
キーワード 温室効果ガス、一酸化二窒素、IPCCガイドライン、インベントリ報告
背景・ねらい 温室効果ガスインベントリ報告書では、農地土壌から排出される一酸化二窒素(N2O)の直接排出には、化学肥料、有機質肥料、作物残渣など農地に投入される窒素源由来のほか、土壌有機物の分解に伴い無機化された窒素に由来する排出も報告しなければならない。各国が温室効果ガス排出量を算定する方法を示したIPCC(Intergovernmental panel on Climate Change: 気候変動に関する政府間パネル)2006年ガイドラインには、「土壌有機物の消失に伴って無機化する窒素の量」に排出係数をかけあわせてN2O排出量を算定する方法が示されている。ところが、実際に圃場でこの「土壌有機物の消失に伴って無機化する窒素の量」を作物残渣や大気沈着など他に由来する無機化窒素と区別して計測することはできない。そのため、現行の日本国温室効果ガスインベントリ報告書では、無窒素区の圃場実測データの平均値(Akiyamaら、2006)から作物残渣由来と大気沈着由来窒素の文献値を差し引いた値が使われており、IPCCガイドラインに沿っていない。そこで、モデルを活用した新たな算定法を開発し、IPCC2006年ガイドラインに沿った方法で土壌有機物の消失に伴い無機化された窒素に由来するN2Oを日本国温室効果ガスインベントリ報告書で算定できるようにする。
成果の内容・特徴 1. すでにわが国のインベントリ報告に使われている、土壌炭素の蓄積分解を計算するRothC (Rothamsted Carbon)モデル(農環研改良版)を活用する。まず100mグリッドの空間解像度で日本全国の農地にモデルを適用し、気象、土壌タイプ、土地利用、土壌への作物残渣と堆肥の炭素投入量の情報を与えて1970年から現在まで土壌炭素量変化を計算する(詳細はYagasaki and Shirato, 2014)。数十年の計算の後、1年間だけ土壌への有機物投入量をゼロとして計算を行うことで、その1年間における、その年に投入された有機物由来ではない、土壌炭素の消失量とそれに伴う窒素の無機化量が計算される。
2. 気象条件に結果が左右されることを考慮し、異なる5年(たとえば2014~2018年)で計算を行う。計算された土壌炭素の消失量を土壌タイプごとのC/N比で割ることにより、窒素の無機化量を算出する。次に、窒素無機化量とN2O発生量を関係づけるN2O統計モデル(Mu et al. (2009)Soil Biol. Biochem. 41: 2593-2597)を用いて、N2O排出量を算出する(図1)。この統計モデルは水田には適用できないので、N2O統計モデルの代わりにIPCC2019年改良ガイドラインのデフォルト排出係数(水田は0.004 N2O-N (kg N input)-1、その他農地は0.006 N2O-N (kg N input)-1)を適用した計算も行う。
3. 水田にはIPCCのデフォルト排出係数を適用した0.282 kg-N2O-N ha-1 year-1(表1)を、その他にはN2O統計モデルを適用した畑0.192、果樹園0.188、茶園0.179、牧草地0.202 kg-N2O-N ha-1 year-1 (表2)の地目別全国加重平均値を用いると、現行の日本国温室効果ガスインベントリ報告書で採用されている0.23 kg-N2O-N ha-1 year-1を用いた場合とN2O排出量(1.2Kt-N2O)は変わらない。
4. この手法は、IPCCガイドラインに準拠している点に加え、気象や土壌タイプなどの環境条件や農業活動の違いを考慮している点で、全国一律の値を使う現行よりも優れている。
成果の活用面・留意点 1. 普及対象:日本国温室効果ガスインベントリ報告書に採用された。
2. 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:日本全域。
3. その他:日本国温室効果ガスインベントリ報告書に採用される算定法の直接の根拠となる成果であり、使用先が限定されていることから農研機構としての普及活動は不要のため、SOP作成は不要。
図表1 249101-1.png
研究内容 https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/niaes/2021/21_018.html
カテゴリ 肥料 水田

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