タイトル | 始原生殖細胞を用いたショウジョウバエの超低温保存法 |
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担当機関 | (国)農業・食品産業技術総合研究機構 基盤技術研究本部 |
研究期間 | 2015~2021 |
研究担当者 |
田中大介 小林悟 浅岡美穂 高野敏行 |
発行年度 | 2021 |
要約 | カイコと並び主要なモデル生物であるショウジョウバエの初期胚から始原生殖細胞を単離し、ガラス化し超低温下にて保存後、別のハエに移植することで元の系統を再現できる手法を開発した。本法は昆虫始原生殖細胞を用いた世界で初めての昆虫系統保存方法である。 |
キーワード | 超低温保存、始原生殖細胞、ガラス化法、ショウジョウバエ |
背景・ねらい | ジーンバンクでは現在700系統以上のカイコ遺伝資源に対して生体保存を行っている。カイコは毎年の飼育による生体更新が必要であり、この作業にかかるコスト低減を図るための新技術の導入が求められている。本問題の1つの解決法として超低温保存に取り組んでおり、カイコの卵巣を用いた成功事例が報告されているが、実施に高い技術が必要であるため事業としての実用化には至っていない。 一方、カイコと並び重要なモデル生物であるショウジョウバエは世界中の研究機関が実験材料として用いており、現在16万種類を超える系統がある。ショウジョウバエはカイコに比較し寿命が短く生体更新頻度が高いため、自然突然変異のリスクが高くなる。ショウジョウバエはモデル生物として発生学的研究が十分になされており、胚発生についても詳しい情報が得られていることから、他の昆虫に先駆けて、始原生殖細胞を初期胚から単離し液体窒素下で保存する超低温保存法の基盤技術開発を行う。 |
成果の内容・特徴 | 1. ドナーとなるショウジョウバエ初期胚の後極から、卵や精子の元となる始原生殖細胞をガラス針を用いて集める。次に、集めた始原生殖細胞を凍結保護剤と混合して、ガラス針ごと液体窒素中でガラス化する(注:冷却中の細胞内凍結(氷晶形成)を抑え、細胞が破壊されるのを防ぐために添加する化学物質を凍結保護剤という)。ガラス針ごとサンプルを急速冷却することにより初めて超低温保存が可能となった。ガラス化したサンプルは液体窒素中で長期保存できる。 2. 本法は実用的なショウジョウバエ系統の超低温保存における成功例であるだけでなく、昆虫の始原生殖細胞を対象とした世界初の超低温保存成功例である。 3. 超低温保存した始原生殖細胞を利用する際には、融解後に妊性のない別の胚(ホスト)の後極に移植する。移植した個体を成虫にまで育てると、移植された始原生殖細胞は生体内で正常な卵や精子に分化する。 4. 移植された個体同士を交配して得られた個体は元の系統(ドナー)と全く同じ性質を持つ。ホストの始原生殖細胞が致死となる不妊の胚をホスト胚として用いることで、成虫が形成する卵や精子は全て移植した始原生殖細胞由来となり、生まれる子は全てドナーと同じ遺伝型になる(図1)。これにより元の系統が復元できる。 5. 本技術は、ショウジョウバエを保存するストックセンターに技術移転され、世界に先駆けてショウジョウバエ系統の凍結保存の実用化を開始している。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 始原生殖細胞を使った超低温保存の可能性が示されたので、今後、カイコなど他の昆虫への応用に向けた取組みを行う。 |
図表1 | ![]() |
研究内容 | https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/kiban/2021/ngrc21_s01.html |
カテゴリ | 遺伝資源 カイコ ストック 低コスト |