タイトル | 廃棄物から生まれた空気浄化塗料 ─スギ合板乾燥廃液の価値を高めるには?─ |
---|---|
担当機関 | (国)森林総合研究所 |
研究期間 | ---- |
研究担当者 |
松井 直之 楠本 倫久 橋田 光 大平 辰朗 吉舎 史晃 道田 実 長谷川 光 大坪 孝彰 |
発行年度 | 2021 |
要約 | これまでスギ合板の製造過程で発生するタール状の乾燥廃液には、積極的な利用法がありませんでし た。ところが、この廃液には有害な二酸化窒素を除去する機能があることが分かったので、塗料に配 合して我々の居住環境の空気をきれいにすることを考えました。しかし、塗料として使用するために は、この機能を長期間にわたり発揮させる必要があります。そこで、乾燥廃液をマイクロカプセル化 した状態で塗料に混合する技術を開発しました。この塗料を二酸化窒素ガスに暴露したところ、二酸 化窒素の濃度の減少が確認できました。さらに、この機能の持続性も確認でき、空気浄化機能を有し た塗料として使えることが分かりました。 |
成果の内容・特徴 | ■スギの乾燥廃液の活用法を考える 国内の合板工場では、原木としてスギが多く用いられています。合板の製造時には、スギ材を薄い単板に加工した状態で高温乾燥を行います。そのときに発生する蒸気を冷却すると、スギに含まれていた抽出成分の一部が粘性の高いタール状の廃液となります(図1)。この乾燥廃液にはこれまで有効な用途がなかったため、ほとんどが焼却処分されていました。しかし、廃液の機能性を調べたところ、大気汚染物質の一種である二酸化窒素を除去する能力が極めて高いことが分かりました。また、その機能には廃液に含まれるアビエタジエン(図2)およびその類縁のジテルペン類が深く関与していることも分かりました。つまり、スギの乾燥廃液をうまく利用すれば、空気をきれいにすることが可能になるのです。 ■乾燥廃液の機能を塗料としてどう活かすか? スギ乾燥廃液の二酸化窒素除去という優れた機能を発揮させるために、塗料に添加することを考えました。その場合、塗料の色や粘性などの性能を損なわないことに加えて、添加した廃液成分の機能を長く保つことが特に重要となります。そのため、乾燥廃液をマイクロカプセルに内包しておき、廃液成分を徐々に放出させることでその機能を長期間維持する技術を開発しました。乾燥廃液をこのマイクロカプセルの状態で塗料に添加することにより、塗料の性能を低下させることなく、乾燥廃液の機能を合わせもつ新たな塗料をつくり出すことができました。 ■二酸化窒素を除去して空気をきれいに スギ乾燥廃液含有マイクロカプセル(以後SMCとする)を様々な割合で添加した塗料の性能を調べるため、塗料を塗布したガラス板を作成しました(図3)。このガラス板を環境基準の数百倍の濃度の二酸化窒素ガスに暴露し、時間経過にともなう二酸化窒素の濃度変化を測定しました。塗料のみでもある程度の二酸化窒素の減少は見られましたが、SMCの添加割合が増すにしたがって二酸化窒素除去率も高くなることがわかりました(図4)。さらに、同じ試験を10回繰り返しても24時間で二酸化窒素の90%を除去する機能は維持されていました(図5)。 二酸化窒素は、自動車の排気ガスなど身近なところに発生源があります。今回開発された塗料を用いた家具などを生活空間に置くことで、その周りの空気を少しでもきれいにできると期待されます。 ■ 研究資金と課題 本研究は、実施課題*「生活環境改善に役立つ抽出成分の解明と利用技術の開発」による成果です。 ■文献 大平辰朗 (2014) 樹木成分による二酸化窒素の浄化. AromaResearch, 15(2), 162-169 ■専門用語 二酸化窒素:窒素酸化物の一種で、種々な物質が燃焼する際に副生成物として生じ、環境汚染の大きな要因の一つとなっている物質。強い酸化作用をもつため、人が吸い込むと呼吸器系などに障害が生じる。 マイクロカプセル:固体の殻で形成された中空の粒子で、内部に物質を封入することができる。内包物としては医薬品、農薬、色素などが多く用いられる。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
図表5 | |
研究内容 | https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/seikasenshu/2021/documents/p36-37.pdf |
カテゴリ | 加工 乾燥 機能性 農薬 |