摘要 |
代謝障害では1)牛の肺炎の早期診断技術の開発のため、ウイルス(牛アデノウイルス3型)あるいは細菌(マンヘミア・ヘモリティカ)実験感染牛について21年度に開発した血中サーファクタントD(SP-D)のELISA法を用いて調べ、いずれの病変においてもSP-Dは有意に増加するが、血中のSP-Dは測定感度以下であることを明らかにした。サーファクタントA(SP-A)の血中濃度はパラインフルエンザ3型ウイルスに単独感染した牛では著しく増加し、ハプトグロビン(Hp)は増加しないことを見出した。一方、ウイルス感染後に細菌による二次感染を起こした牛では血中SP-Aの軽度の増加とHpの著しい増加が認められ、血清診断による感染動態把握が可能であることを示した。繁殖障害では1)効率的な繁殖衛生管理のための家畜の生殖補助技術の高度化のため、豚精液の凍結法について検討し、人工授精法の豚精液の凍結希釈液としてグルコースあるいはトレハロースを添加したモデナ液を用いると、凍結融解後の精子の運動率が改善されることを明らかにした。豚精子の超急速凍結法としてドロップレット法を試み、運動性の改善効果が認められないことを確認した。凍結精液の融解注入液としてモデナ液と体外受精培地(PGM)を用いて融解および希釈を行うと精子性状が向上することを示した。2)生体情報のモニタリング技術を応用した繁殖障害防除法の開発のため、膣内電気抵抗(VER)値を連続してモニタリング可能な電極プローブを作製した。VER値は排卵25時間前に最低値となり、連続測定により排卵時間の予察が可能であることを確認した。泌乳障害では1)乳汁の免疫細胞機能の解析のため、乳房炎に治癒効果が期待される牛の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を乳房炎牛15頭に投与したところ8頭で体細胞数の低減効果がみられ、これらの牛ではCD14+細胞数と血清アルブミン・グロブリン比(A/G比)の高値が示され、免疫能と感染後の経過期間がGM-CSFの効果に影響することを明らかにした。健康牛3頭に牛GM-CSFを投与したところ投与による明らかな臨床的変化は見られないことを確認した。2)乳房炎の発病機序を解明するため、乳腺上皮細胞(BMEC)培養系に黄色ブドウ球菌死菌を添加しCap Analysis Gene Expression(CAGE解析)によってIL-6等のサイトカインやIL-8、CCR5等のケモカインの誘導を確認した。また、黄色ブドウ球菌と大腸菌ではBMECの遺伝子発現プロファイルが異なることを明らかにした。3)乳房炎の原因となる乳汁中の黄色ブドウ球菌を、農場内において20分以内に検出出来るイムノクロマトを応用した新たな診断法を開発し、乳房炎の早期診断を可能とした。
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