課題名 | ① 農業生物のゲノム解読の推進とゲノムリソースの拡充・高度化 |
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課題番号 | 2012020453 |
研究機関名 |
農業生物資源研究所 |
研究分担 |
長村 吉晃 アントニオ バルタザール 宮尾 安藝雄 佐藤 豊 半田 裕一 菊池 尚志 小松田 隆夫 川東 広幸 水野 浩志 大野 陽子 小林 史典 呉 健忠 山本 公子 門野 敬子 安河内 祐二 末次 克行 木原 眞実 上樂 明也 土岐 精一 岸本 直己 土生 芳樹 宮原 研三 中山 繁樹 雑賀 啓明 遠藤 真咲 |
協力分担関係 |
(独)理化学研究所 国立大学法人京都大学 公立大学法人横浜市立大学 国立大学法人神戸大学 日清製粉(株) (独)農業・食品産業技術総合研究機構 国立大学法人東京大学 三菱スペース・ソフトウエア(株 国立大学法人岡山大学 地方独立行政法人北海道立総合研究機構 |
研究期間 | -4 |
年度 | 2012 |
摘要 | 1.コムギの全ゲノム解読を目指している国際コムギゲノム解読コンソーシアムの一員として、コムギ6B染色体の詳細物理地図作成とゲノム配列解読を行っている。コムギ6B染色体由来のBACクローン68,000個を使用してアセンブルを行い、短腕の87%、長腕の95%をカバーする約700個のBACコンティグからなる物理地図を構築した。さらに、このコンティグからMTPクローンを選抜し、次世代シーケンサー(NGS)による塩基配列解読を行っている。また、コムギ及びオオムギの国際コンソーシアムにおいて、それぞれcoordinating committeeあるいはsteering committeeのメンバーとして、その運営にも積極的に関わっている。 2.トビイロウンカへの対策として耐虫性イネ品種がアジア各国で実用化されているが、耐虫性を打破するバイオタイプが出現したため十分な効果をあげていない。圃場で長く耐虫性を維持する品種を開発するためには、ウンカのバイオタイプが耐虫性を打破するメカニズムを理解する必要がある。バイオタイプの加害メカニズムの解析基盤を整備するため、加害性の異なるトビイロウンカバイオタイプ系統間で837マーカーが座乗したSNP連鎖地図を構築した。 3.イネゲノムにおける多様性情報の獲得は、塩基配列の変異を利用するイネ遺伝子の機能解析やゲノム育種のために重要である。アジア栽培イネから32品種、野生イネ集団から2系統を選び、次世代シーケンサーによる全ゲノム塩基配列解読を行った。リファレンスである日本晴全ゲノム塩基配列へのマッピングを行った結果、全ゲノムで81.0~94.3%、遺伝子(エクソン)領域では92.7~98.3%をカバーしており、重要なゲノム基盤情報を構築できた。 4.マイクロアレイデータにより作成・公開してきた遺伝子発現情報データベースRiceXProは、24年度さらに圃場・成育過程データ、植物ホルモンデータ等を追加してバージョンアップし、計753アレイデータをもつ高精度のイネ遺伝子発現データベースRiceXProVer.3.0として公開した。また、815マイクロアレイデータを利用したイネ遺伝子共発現データベースRiceFRENDを構築・公開した。 5.減数分裂期組換え位置の決定におけるDNAメチル化の役割を明らかにする目的で、イネDDM1遺伝子ノックダウン系統のDNAメチル化状態をゲノムワイドに解析し、ノックダウン系統では主にヘテロクロマチン領域のメチル化が低下していることが明らかになった。これにより、通常組換えが起こりにくいゲノム領域のクロマチン状態を緩めることができる可能性が示された。 6.イネ科作物における様々なストレス、特にリン酸欠乏ストレス応答に関わる制御ネットワークの解明を目指して、リン酸欠乏条件下でリン酸欠乏耐性が異なるイネ品種を生育し、転写産物をNGSで解析した。品種間で共通に反応するリン酸欠乏応答基本遺伝子群を絞り込むとともに、その大半がリン酸欠乏耐性品種においてより強く発現していることを明らかにした。転写産物の発現強度の差が品種間におけるリン酸欠乏耐性の差に寄与すると考えられた。 7.ソルガムではマイクロアレイが作成されていないため、紫斑点病の発病機構解明のために感染前後におけるトランスクリプトーム解析を行い、病害抵抗性応答遺伝子の解析を行った。RNA-seqの結果、40,218個の遺伝子構造が得られ、そのうち7,674個は、これまでにアノテーションされた遺伝子座と重ならなかったが、1,337個は、UniProtに登録されたタンパク質配列に相同性が見出され、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析は新規遺伝子の探索に有効であった。発現上昇は、糸状菌の感染で誘導されるPR遺伝子群や、キチナーゼ、グルカナーゼ、ファイトアレキシンである3-デオキシアントシアニジン合成遺伝子群で確認された。 8.オオムギ六条性遺伝子Vrs1の機能解明のために、Vrs1とそのパラログHvHox2の発現部位と発現量等を調査した。HvHox2は穂の器官分化の後期に発現量が増加し、特に維管束で強く発現していたのに対し、Vrs1は3小穂が形成される器官分化前期にHvHox2より10倍以上高く発現していた。Vrs1は一貫して側列小花に局在し、特に雌蕊で強く発現していた。VRS1タンパク質もmRNAと同様に側列小花に存在し、核に局在していた。以上の結果から、Vrs1遺伝子はHvHox2遺伝子と発現レベルで機能分化し、雌蕊の発達を抑制することで側列小花の稔性を制御するということが明らかになった。 9.ツマグロヨコバイ放飼時にイネで発現量が高まる遺伝子群の耐虫性との関連を明らかにするため、抵抗性系統でのみ発現が高まった遺伝子のうちテルペン合成酵素に着目しGC-TOFMS解析により、抵抗性系統TGRH29での代謝産物同定を行った。放飼後、抵抗性系統でのみセスキテルペンが放出されることが明らかになった。セスキテルペン自体は、ツマグロヨコバイの吸汁阻害効果は持たなかったので、これらの遺伝子の発現を抑制した形質転換系統を作出し詳細な解析を行っている。 10.超広食性の重要害虫であるハスモンヨトウの各種植物や耐虫防御物質に対する反応を解析し広食性機構解明へ向けた基盤構築を目的に発現遺伝子解析を進めた。24年度は遺伝子発現変動解析に必要なリファレンス配列を作成し、ダイズに含まれる主要な耐虫物質の1つであるトリプシンインヒビター処理により発現変動する遺伝子をRNA-seqにより網羅的に獲得した。また、得られた候補遺伝子の発現部位を解析するため中腸の囲食膜の組織学的解析を試み、囲食膜は膜状の構造が複数重なり、脱皮後摂食前よりも後の方が約2倍厚くなっていた。 11.アワノメイガ属嗅覚受容体遺伝子群の分子進化と性フェロモン受容機構との関連性の解明を目指し、アワノメイガ、ヨーロッパアワノメイガ、ウスジロキノメイガの性フェロモン受容体及びフェロモン結合タンパク質遺伝子クラスター領域のゲノム塩基配列を概ね決定した。また、アワノメイガのフェロモン受容体とフェロモン結合タンパク質遺伝子群に関して、オス特異的な転写物が見出され、性フェロモン受容への関与の可能性が考えられた。 12.ジーンターゲッティング(GT)によって必要な変異のみを導入する為には、選抜マーカー遺伝子をきれいに除去する必要がある。そこで昆虫において転移後足跡を残さないことが報告されているトランスポゾンpiggyBacを用い、植物においてマーカー遺伝子の綺麗な除去が可能か検討を行った。その結果、piggyBacはイネで転移し、転移後には足跡を残さないことが明らかになった。また、GTによりALS遺伝子に除草剤耐性変異を導入したイネの“ゲノムのきれいさ”を証明するために、genome CGH array解析、NGSを用いたWhole Genome Sequencing解析を行い、アグロバクテリウム由来のDNA配列が含まれないことを示した。 13.遺伝子組換え体において生じる導入遺伝子の不活性化(サイレンシング)を抑制するDNA配列を、ハイグロマイシン抵抗性の獲得を指標として、DNAライブラリーから探す方法を開発し、この手法によってミヤコグサゲノムから3種類のDNA配列を単離・同定した。 14.農林水産省委託プロジェクトの中で作成されてきたイネ、ブタ、カイコゲノム等の研究リソースの適切な保存・管理及び提供を行った。24年度はイネ完全長cDNAを1,782点(リクエスト件数:287件)、Tos17突然変異体系統を1,188点(リクエスト件数:177件)配布した。またイネ遺伝解析材料は2,359系統(リクエスト件数:50件)の分譲依頼があり、適切に配布を実施した。 |
カテゴリ | 病害虫 大麦 カイコ 害虫 ゲノム育種 除草剤 性フェロモン ソルガム データベース 抵抗性 病害抵抗性 品種 フェロモン 豚 |