63℃30分の熱処理が初回初乳の抗体濃度と子牛への移行割合に与える影響

タイトル 63℃30分の熱処理が初回初乳の抗体濃度と子牛への移行割合に与える影響
担当機関 道立根釧農試
研究期間 2006~2006
研究担当者 高橋雅信
昆野大次
西村和行
本郷泰久
大坂郁夫
上田和夫
発行年度 2007
要約
    乳の低温殺菌法である63℃30分加熱処理に準拠した循環型熱処理装置による初回初乳の加熱処理は、表面に泡立ちが少ない状況で99.9%以上の殺菌効果がある。処理により初乳中IgG量は74±5%に低下するが、新生子牛によるIgG吸収率は35±10%で既報の非熱処理初乳で得られた値と同程度である。
キーワード
    初乳、熱処理、殺菌、IgG濃度、IgG吸収率
背景・ねらい
    病原細菌で汚染された初乳を介して、子牛の消化器疾患や牛群内の細菌性感染症が増長される危険があり、米国の大規模農場ではプール初乳を熱処理して利用する技術が取り入れられている。しかし、初回初乳は常乳に比較して粘度が高く、加熱処理に伴う移行性免疫の損失や加熱部への焦げ付き等の問題点が指摘されている。米国から導入・市販されている初回初乳の63℃30分の加熱処理が可能な循環型熱処理装置を用いて、初回初乳の殺菌効果と哺乳利用上の留意点を検討する。
成果の内容・特徴
  1. 供試装置は、初乳用付加部品を含む本体(CALF GUARDIAN、GOODNATURE社、米国)と貯乳タンクからなり、ポンプを用いてタンク内の初乳等をタンク底部から熱交換器を通して吸引し、タンク内に吐出・循環しながら、加熱と63℃30分の温度保持を行い、熱処理終了後、自動的に哺乳可能温度(40℃)まで品温を下げる機能を持つ。
  2. タンク内に泡立ちが少ない状況では、99.9%以上の良好な殺菌効果が得られる。しかし、タンク内に激しい泡立ちを生じ、表面が厚く泡で覆われた状態では殺菌効率が低下する(表1)。
  3. 3.熱処理後の初乳中IgG量の残存割合は、70%~79%でその平均(標準偏差)は74±5%である(表1)。
  4. 熱処理初乳を2リットル×2回哺乳してIgGを100g以上摂取させた子牛の血清中IgGの平均値(標準偏差)は、12.7±2.0mg/mlでIgG摂取量の目安とされる10mg/mlを上回る。また、IgG吸収率は35±10%で既報の非加熱処理初乳で得られた27.8~34.2%(道畜試、平成16年度北海道指導参考事項「黒毛和種牛の初乳成分と子牛への初乳給与法」)と同程度である(表2)。
成果の活用面・留意点
  1. 初乳の熱処理法と熱処理初乳利用のための情報として利用できる。
  2. 63℃30分処理初乳の哺乳利用により、汚染された初乳が原因となり発生・伝搬する感染症の低減が期待できるが、加熱処理により初乳中IgG量が70~80%に低下するので考慮すること。また、初回哺乳は出生後6時間以内に実施することが望ましい。
  3. タンク内での泡立ちの防止のため、初乳の穏やかな投入と稼働前の装置配管内の空気抜きに務め、厚さ1cm以上の泡を生じた場合、63℃到達前に泡を取り除くこと。
  4. 供試装置の初乳処理量は40リットル/回であるが、タンク変更により増量できる。
  5. 装置の構造的要因の他、初乳の高い粘性のため、熱処理工程後に約5リットルの初乳が装置内に残存する。また、熱処理に伴い、熱交換部内の加熱体表面には、アルカリ洗剤と酸性洗剤を用いた通常の循環洗浄では除去できない汚れの付着が生じる。このため、洗浄前のすすぎを充分行うとともに、洗浄後に熱交換部を毎回開放し、加熱体の表面をブラシにより手洗浄する必要がある。
図表1 213883-1.jpg
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