タイトル |
高等生物(ネムリユスリカ)の永久的休眠の誘導・維持・覚醒機構の解明とその利用 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2001~2002 |
研究担当者 |
奥田隆
黄川田隆洋
皆川昇
行弘文子
渡邊匡彦
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発行年度 |
2002 |
要約 |
アフリカ乾燥地帯に生息するネムリユスリカ幼虫は身体が完全に脱水した状態で休眠する。乾燥過程では大量のトレハロース合成・蓄積が起こっていた。この永久的休眠には脳などの中枢は関与しておらず、各組織が乾燥ストレスに応答した可能性が高い。
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キーワード |
乾燥耐性、永久的休眠、ネムリユスリカ、トレハロース、極限環境、クリプトビオシス
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背景・ねらい |
脳、神経、消化器官、循環器官等を備えた高等生物において、完全に脱水して無代謝状態になる永久的休眠(クリプトビオシス)をする種があることはあまり知られていない。アフリカ大陸には岩盤の窪みなどに溜まった小さな水たまりに生息するネムリユスリカ(Polypedilum vanderplanki)がいる。乾季に水たまりが干上がるとユスリカ幼虫も完全に脱水し乾燥する。しかし雨季になり、水たまりに水が張ると、乾燥していた幼虫は吸水して再び発育を開始する。乾燥状態の休眠ユスリカ幼虫が17年後、水の中で蘇生したという記録が残っている。また乾燥状態の幼虫は、-270℃の低温や100℃の高温に対して耐性を持つ。この永久的休眠の誘導・維持・覚醒機構を生理・生化学的手法を用いて解明する。
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成果の内容・特徴 |
- 非常に困難とされていたネムリユスリカの室内継代飼育方法を確立した。
- ネムリユスリカ幼虫を急速に乾燥させると蘇生しないが、実験室内で永久的休眠を100%誘導できる条件を決定した。
- HPLCの解析によりネムリユスリカ幼虫の永久的休眠の誘導過程でトレハロースが大量に蓄積する(乾重の20%)ことを明らかにした。
- 脳などの中枢神経系が永久的休眠誘導に関与しているかどうかを調べるため、断頭した幼虫を徐々に乾燥させ、蘇生率とトレハロース含量を調べた。除脳幼虫は乾燥過程でトレハロースの合成・蓄積を行った(図1)。そして再び水を与えるとほとんどすべてが蘇生した(図2)。このことは、幼虫が持つ脳、消化器官、筋肉等のそれぞれの器官が、独自に乾燥ストレスに応答し、自己完結的に永久的休眠の準備、すなわちトレハロース合成蓄積等を行っていることを示唆した。
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成果の活用面・留意点 |
- 乾燥休眠には脳を含む中枢の制御なしに、個々の細胞・組織が自己完結的に乾燥準備をすることを突き止めた。このことはネムリユスリカの摘出した組織の蘇生可能な状態での乾燥保存が可能なことを強く示唆した。今後は摘出した組織や細胞レベルでの永久的休眠の誘導を試みる。これは昆虫細胞の常温乾燥保存技術の開発、さらには脊椎動物への応用へと発展していく可能性をもつ。
- 組織・器官(臓器・食肉)の保存は冷蔵・冷凍すなわち低温保存が唯一の手段である。この保存法にはエネルギーを必要とするし、フロンなど環境汚染物質を使用する。さらに保存期間は限定されている。一方、乾燥保存はエネルギーを必要としない。また、半永久的な保存が可能である。この技術は将来、省エネ、環境保全、途上国の食糧問題解決に貢献するものと期待される。
- イオンビーム照射による突然変異系統の作出を試み、乾燥耐性因子の解明のツールを作る。
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カテゴリ |
乾燥
くり
省エネ・低コスト化
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