タバコモザイクウイルス抵抗性を誘発する新しい天然物質の発見

タイトル タバコモザイクウイルス抵抗性を誘発する新しい天然物質の発見
担当機関 (独)農業生物資源研究所
研究期間 2002~2007
研究担当者 光原一朗
瀬尾茂美
大橋祐子
発行年度 2003
要約 病傷害に対する植物の防御応答に関わる鍵因子のMAPキナーゼを誘導する物質として新規ジテルペンをタバコから単離した。本物質は病傷害の情報をMAPキナーゼを介して防御遺伝子に伝え、抵抗性反応に導く伝達物質として働く。
キーワード 生理活性物質、新規情報伝達物質、病傷害抵抗性
背景・ねらい 植物の病傷害抵抗性に関わる鍵因子の発現制御機構を解析し、その因子の機能を制御する未知物質を単離できれば、その物質を原料として新しい病害防除剤の開発が可能になる。そのような農薬は広範囲な病原体の感染に効果を示すと期待され、また天然由来の物質をもとに合成されることから環境に与える影響も少ないと考えられる。
成果の内容・特徴 病原体の感染や虫の摂食などによる傷害を感知した植物では、植物ホルモンなどの低分子物質が急速に生産されることが知られている。蓄積したこれらの物質はMAPキナーゼ(MAPK;タンパク質リン酸化酵素の一種)を活性化する。活性型MAPKは抗菌性タンパク質遺伝子などの一連の防御遺伝子を誘導し、最終的にその植物は抵抗性を示すようになる。このような病傷害抵抗性反応で働く植物MAPKのひとつとしてタバコのWIPKが知られている。  WIPKはタバコモザイクウイルス(TMV)感染や物理的傷に応答して不活性型から活性型に変換するが、どのような物質がその変換の引き金を引くのかは今まで不明であった。
  1. TMV感染タバコ葉からWIPK活性を誘導する物質の精製(図1)を試みたところ、強い活性を示す物質を得ることに成功した。構造解析の結果、本物質は天然から初めて見つかった新規ラブダン型ジテルペンであることが分かり、WAF-1(WIPK-activating factor1)と命名した(図2)。
  2. WAF-1はnM濃度(植物ホルモン並の低濃度)でWIPKや防御遺伝子群を誘導し、TMV抵抗性をも増強する(図3)ことがわかった。また、化学的に合成したWAF-1も同等の活性を示した。
  3. TMV感染や物理的傷害に伴い生体内WAF-1含量が急速に増加することを見出した。
  4. これらの結果は、WAF-1がTMV感染や傷害の情報をWIPKを介して防御遺伝子に伝え、最終的に抵抗性へと導く情報伝達物質として働くことを示唆する。
  5. WAF-1を投与したタバコ葉ではサリチル酸(SA;病害抵抗性の誘導に関わる情報伝達物質)含量は変化しなかったことから、WAF-1によるTMV抵抗性の誘導にはSAは関与しないと考えられる。

図1

図2

図3
成果の活用面・留意点
  1. WAF-1やその類縁化合物を原料としてウイルス病やその他の病気に対する新しい病害防除剤の創製が期待できる。WAF-1は植物由来の物質なので、これを元に作られた防除剤は環境に与える影響も少ないと考えられる。
  2. WAF-1はヒトのガン細胞でアポトーシスを誘導するスクラレオールと構造が似ている。もしWAF-1やその類縁化合物にも同様の活性が見出せれば、新しいアポトーシス誘導剤として使用できる。動物細胞に対するWAF-1の生理活性を調べることで、医療に役立つような薬理作用が見つかる可能性がある。
  3. 病害抵抗性におけるWAF-1の役割をさらに明らかにすることで、SAを介さない情報伝達の分子機構に関する研究の発展が期待できる。
図表1 226384-1.jpg
図表2 226384-2.jpg
図表3 226384-3.jpg
カテゴリ 病害虫 たばこ 抵抗性 農薬 病害抵抗性 防除

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