タイトル | イネの全ゲノム塩基配列情報の完全解読 |
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担当機関 | (独)農業生物資源研究所 |
研究期間 | 2004~2005 |
研究担当者 |
呉健忠 佐々木卓治 松本隆 水野浩志 片寄裕一 |
発行年度 | 2004 |
要約 | 我が国が中心となり国際コンソーシアムが推進してきたイネ(品種;日本晴)の3億7千万塩基に及ぶゲノムの塩基配列の解読作業が、2004年12月に終了した。本成果はイネ遺伝子機能の解明を通じたゲノム育種を加速化させ、またイネ科作物の遺伝子解析や育種への応用が期待される。 農業生物資源研究所・ゲノム研究グループ・植物ゲノム研究チーム |
キーワード | イネ、ゲノム、塩基配列 |
背景・ねらい | 農業生物資源研究所では、イネの全遺伝情報であるゲノムの塩基配列を解明している。ゲノムの塩基配列が明らかになることによって、イネを構成する全遺伝子が同定され、それぞれの機能が明らかになれば、イネの農業上重要な形質がより詳細に解明される。これにより様々な形質をコントロールすることが可能になり、イネの効率的な育種が可能となる。全塩基配列解読のプロジェクトは世界の10か国からなる国際コンソーシアム(IRGSP)によって推進され、その中で我が国は12本あるイネの染色体のうち半数の6本を担当した(図1)。国際コンソーシアムはすでに2002年に途中経過として全ゲノムの高精度ドラフト配列を公開した。2004年12月に全ゲノムの高精度解読作業は完了し、3億9千万塩基対あるイネゲノムの95%の遺伝情報が明らかになった。 図1 |
成果の内容・特徴 | 1.ゲノム塩基配列解読の方法は、最初にイネのDNAを15-20万塩基程の断片にして大腸菌にクローニングし(PAC, BACクローン)、各染色体上の位置の目印となる配列(DNAマーカー)を指標に、これらの断片を並べる(物理地図)。この様にして並べられた断片のそれぞれのATGCからなる塩基配列を、ショットガン法を用いて高速配列解読装置(シーケンサー)によって解読する。最後に、これらの断片の配列の隣と重なる箇所を削除してつなぎ合わせると、染色体1本分の長い配列ができあがる。 2.このようにしてイネの12本の染色体のほぼ全ての塩基配列が明らかになった。これによってイネの遺伝子の翻訳領域、発現制御領域を含めた全ての機能領域の解析が可能になった。 3.解読されたATGCからなるDNAの塩基配列は合計して約3億7千万塩基であった(図2)。この長さはゲノムの全塩基配列の正確な解読がなされた生物としてはヒトゲノムについで2番目であり、高等植物ではすでにゲノムの解析が終了したシロイヌナズナ(アラビドプシス)に次いで2番目、作物のゲノム解析としては初めてである。また現在の技術では解読できない、ギャップとなった領域も加えると、イネゲノムの長さは3億9千万塩基であり、今回解読したのは全ゲノムの95%にあたる。 4.得られた配列からコンピュータソフトによってイネゲノム上に37000個以上の遺伝子を見いだした。従ってイネにはシロイヌナズナ(遺伝子は25000個と推定されている)より多くの遺伝子が存在すると考えられるが、シロイヌナズナはイネの3分の1の長さのゲノムしか持たないため、遺伝子の密度はイネの方が低いと思われる。遺伝子と遺伝子の間には転移因子(トランスポゾン)が高い密度で存在するがこれらの役割については未だよくわかっていない。 5.予測された遺伝子のタンパク配列を見ると、その60%には既知の機能領域(ドメイン、モチーフ)が存在する事が明らかになった。なかでもタンパク質リン酸化やタンパク質-タンパク質間相互作用、遺伝子発現因子(転写因子)に関連するモチーフが多く見つかった。 図2 |
成果の活用面・留意点 | 1.イネゲノムの塩基配列はイネの全ての研究の基本情報である。遺伝子地図に基づいてイネの有用遺伝子の単離・機能解明を行うために、ゲノム塩基配列はDNA マーカーの設定や候補遺伝子の抽出に必須となっている。 2.イネ品種間の比較によって、在来の品種が持つ有用形質を明らかにできる。また祖先が同じであるイネ科の植物間には遺伝子の並び方に共通性(シンテニー)が見られるため、イネの遺伝子や塩基配列を利用してムギやトウモロコシなど他の重要な作物の遺伝子解析に役立つ。 3.イネゲノムの塩基配列を作物のGold Standardとして利用するために、ゲノムの専門家の為だけでなく、育種や生理学等の研究者等にも使いやすいデータベースとして公開していくことが重要である。 |
図表1 | |
図表2 | |
カテゴリ | 育種 ゲノム育種 シカ データベース DNAマーカー とうもろこし 品種 |