タイトル |
開花せず花粉を飛散しないイネ突然変異体とその原因遺伝子 |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター |
研究期間 |
2004~2007 |
研究担当者 |
伊藤純一(東大)
吉田均
佐藤光(九大)
松村葉子
草場信(東大)
大森伸之介
長戸康郎(東大)
内田英史
堀米綾子(東大)
木水真由美
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発行年度 |
2007 |
要約 |
閉花受粉性イネ突然変異体spw1-clsでは、おしべやめしべには変化がないものの、鱗被が変形し、膨らむことができない。そのため、開花せずに正常に稔実する。SUPERWOMAN1遺伝子のアミノ酸置換変異が本変異体の閉花受粉性の原因である。
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キーワード |
イネ、閉花受粉、SUPERWOMAN1遺伝子、鱗被、花粉飛散、突然変異
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背景・ねらい |
遺伝子組換え農作物等の研究開発・実用化を進めるにあたり、消費者の選択権を保障しながら、生産者が安心して栽培できる状況を作ることが何よりも重要である。そこで本研究では、遺伝子組換え農作物等の花粉が飛散することによる一般農作物との交雑を抑制する技術の一つとして、開花せずに花粉が飛散しないイネを開発し、遺伝子組換えイネ等の母本としての利用を図るとともに、閉花受粉性のメカニズムを明らかにする。
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成果の内容・特徴 |
- 閉花受粉性イネ突然変異体spw1-clsは開花しないために花粉を飛散せず、なおかつ正常に種子が稔実する(図1)。
- spw1-clsの出穂日、草丈、穂数、穂長、1穂粒数、稔実率、粒重、粒の形状や外観(図2)について、原品種である「台中65号」と顕著な差は見られない。
- 通常のイネは、鱗被(花びらに相当)が膨らんで外穎を押し出すことによって開花するが、spw1-clsでは、おしべやめしべには変化がないが、鱗被が平らで細長い穎状の器官に変化して、膨らむことができないため、開花せずに正常に稔実する(図3)。
- 本変異体では、鱗被とおしべの形作りを決定する転写因子SUPERWOMAN1(SPW1)遺伝子が変異しており、野生型SPW1を導入すると鱗被の形態が回復して開花することから、SPW1が本変異体の原因遺伝子である(図3)。そこで、この閉花受粉性イネをsuperwoman1-cleistogamy (spw1-cls)と呼ぶ(「cleistogamy」は「閉花受粉性」の意味)。
- 通常のイネではSPW1タンパク質はOsMADS2やOsMADS4というパートナータンパク質と二量体を形成し、DNAに結合して鱗被とおしべの形作りに必要な遺伝子の発現を調節すると考えられる。spw1-cls変異体のSPW1タンパク質では二量体形成に重要な領域のアミノ酸が変異しているため、これらのパートナータンパク質と結合する能力が低下する(図4)。その結果、転写因子としての機能が低下し、鱗被を正常に形成することができなくなったため、閉花受粉性となったと考えられる。
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成果の活用面・留意点 |
- 通常の交配によってspw1-cls変異を導入することにより、遺伝子組換えイネ、機能性品種、有色素米品種をはじめ、原種や原原種段階で種子の純度維持が強く求められる品種など多様な場面において、花粉飛散による交雑を抑制することが可能である。
- DNAマーカーを利用した交配によって、効率的にspw1-cls変異をさまざまな品種に導入することができる。
- 今回発見した閉花受粉性突然変異体、あるいは交配によってspw1-cls変異を導入したイネ品種をさまざまな地域で栽培し、閉花受粉性の安定性を検証する必要がある。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
機能性
受粉
DNAマーカー
品種
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