タイトル | 牛の放牧による利用休止牧野の植物の地上部現存量減少と出現種数の増大 |
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担当機関 | (独)農業・生物系特定産業技術研究機構 九州沖縄農業研究センター |
研究期間 | 1999~2003 |
研究担当者 |
小路 敦 山本嘉人 平野 清 中西雄二 進藤和政 萩野耕司 |
発行年度 | 2003 |
要約 | 阿蘇地域における利用休止牧野を電気牧柵で囲い、3頭/ha程度の牛を夏季2ヶ月間放牧することによって、牛の健康を損なうことなく、植物の枯死部を含む地上部現存量が急速に減少する。また、植物の出現種数は増大する。 |
キーワード | 野草、放牧、肉用牛、永年草地、地上部現存量、利用休止牧野、出現種数 |
背景・ねらい | 阿蘇地域をはじめ、九州高標高地域では牧野の利用休止が目立ってきている。利用休止された牧野では、植物の地上部現存量が増大し、出現種数が減少しているため、野火や失火が懸念されているとともに、草原生態系の維持が危ぶまれている。放牧家畜の選択採食特性を活かして利用休止牧野における植物の地上部現存量を減少させ、出現種数を増大させる植生管理技術の開発を図り、自然再生事業等への活用を目指す。 |
成果の内容・特徴 | 1. 利用休止牧野の一部を電気牧柵で囲い、成牛(褐毛和種・空胎)約3頭/haを夏季約2ヶ月間(6月上旬~8月上旬)放牧することによって、おもに立枯れやススキ等イネ科植物の地上部現存量が急速に減少する(図1)。植被を失うこともなく、野火などの発生も防ぐことができる。 2. 牛の放牧により、利用休止牧野における植物の調査枠(4m2)あたりの出現種数は、当初約2年間増大し、やがて一定となる。一方、放牧区全体の総出現種数は、単位面積あたりの出現種数が一定となった後も増大し続ける(図2)。出現種数の増大は、主として草原性植物の種数増大によるものであり(図3)、導入履歴のある外来牧草等の定着は認められるものの、いわゆる強害帰化雑草が蔓延する懸念はない。 3. 放牧に伴う踏圧よって表層土壌が圧縮され、土壌硬度が増大するとともに、土壌間隙が減少し、土壌の透水性や通気性が低下する。このことによって、多くの草原性植物に好適な比較的湿潤な土壌環境が創出される(図4)。 4. 成牛(褐毛和種・空胎)約3頭/ha程度の放牧密度、2ヶ月間(6月上旬~8月上旬)程度の放牧期間であれば、放牧牛の極端な体重減少や血液性状への影響もほとんどなく(退牧時体重は入牧時体重の±30kg、血漿総タンパク質・ヘマトクリットとも正常値の範囲内)、健康状態への影響は認められない。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 阿蘇・北外輪の利用休止後8年が経過した牧野における成果であるが、同様の利用休止牧野における植生管理に活用できる。 2. 放牧牛の十分な馴致と、飲水確保・鉱塩の補給が不可欠である。また、妊娠牛を用いる場合は、補助飼料の給与等、栄養面で配慮する必要がある。 3. 生長した木本植物や有刺・有毒植物等は牛が採食しないため、別途刈払い等の処置を講じる必要がある。また、放牧牛が人工草地との間を自由に往来する場合、雑草種子や肥料分の移動に伴う雑草繁茂に留意する必要がある。 |
図表1 | |
図表2 | |
図表3 | |
図表4 | |
カテゴリ | 肥料 病害虫 くり 雑草 植生管理 土壌環境 肉牛 |