タイトル |
東南アジア水田地域の互恵的な水利慣行を図示する参加型学習行動法 |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 |
研究期間 |
2004~2007 |
研究担当者 |
山岡和純
任永懐
堀川直紀
友正達美
|
発行年度 |
2007 |
要約 |
アジアの水田地域では、農民間の相対交渉による互恵的な田面水の再配分が行われている。これを参加型学習としてのマッピング手法で相互認識することにより、農民自身が地域の水利用の実態と水利慣行を確認でき、水管理組織と規範の形成に役立つ。
|
キーワード |
カンボジア、水田、水利慣行、参加型学習
|
背景・ねらい |
近年、開発途上国で推進されている参加型水管理では、農民自身が地域の特性に即した水管理のあり方を検討し、その組織と規範を主体的に形成していくことが望まれる。しかし、組織的水管理の経験がない地域では、水利用の状況及び水利用に関する農民の相互関係についての認識が十分でなく、参加型水管理の導入が難しい場合がある。そこで、水田稲作において農民が伝統的に行っている非組織的な水利慣行に着目し、その互恵的な性格を明らかにするとともに、技術協力に活用できる手法を確立する。
|
成果の内容・特徴 |
- カンボジア中部平地水田(約12.3ha、91筆)を対象に、水田へ補給灌漑を行う際の水源の位置および水田までの引水経路を調査した結果、田越し灌漑は樹枝状に分岐する固定した経路でなく多様なネットワーク状の経路を持ち(図1)、また重力方向の流れだけでなく、下流からのポンプ揚水を含む双方向的な水の分配が行われている。
- また、田越し灌漑における農民間の交渉の有無や内容について聞き取り調査を行った結果、農民は水田に貯留した水を独占せず、施肥直後などの事情がない限りは田越し灌漑の要請を断らずに水の再分配を承認する水利慣行(表1)を持つことが明らかになった。水は組織的に管理されていないが、農民間の水利慣行の規範とネットワーク状の引水経路によって互恵的に分配される。
- 農民によるワークショップにおいて、水田区画を表示した大型の地図に農民が各自の引水経路を記入し、地区全体の水の流れを理解する図示化手法(参加型学習行動法(participatory learning and action:PLA)としてのマッピング)を考案した(写真1)。
- この手法により、参加した農民は上記1、2のような地域内の水配分の実態と互恵的な分配の習慣を確認でき、利水者としての連帯感を醸成することで、参加型水管理の円滑な導入が期待できる。
|
成果の活用面・留意点 |
- この活動による互恵的水利慣行の確認から、組織形成における受益者の平等性の確保へ、また、水利用の実態の確認から、問題分析等の参加型計画手法の適用へと、参加型水管理の形成プロセスを進めることができる。現在の水利用の問題を討議する契機とすることができる。
- 一般に水田地域では、組織的な水管理が見られない場合にも、農民相互に何らかの水利慣行があると考えられ、この手法はアジア等の水田地域で広く適用できる。
- この手法は、Guidelines for On-farm Irrigation Development and Management in Monsoon Asian Countries (財日本水土総合研究所、2007)で紹介され、東南アジアで参加型水管理に携わる日本人及び被援助国の専門家に配布されている。
|
図表1 |
|
図表2 |
|
図表3 |
|
カテゴリ |
水田
施肥
水管理
|