タイトル |
遺伝的クレード(分岐群)からみた日本のドジョウの集団分布図 |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 |
研究期間 |
2008~2009 |
研究担当者 |
小出水規行
森 淳
竹村武士
渡部恵司
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発行年度 |
2009 |
要約 |
日本国内に生息するドジョウの遺伝的クレードを解明し、全国における集団の分布図を作成する。ミトコンドリアDNAの塩基配列による系統樹から、日本のドジョウは3つの遺伝的クレードによって構成され、それぞれ特徴的な分布を示す。
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キーワード |
田んぼの生きもの調査、シトクロームb、ハプロタイプ、最節約法
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背景・ねらい |
これまでの農業農村整備事業における生態系配慮は、生物生息環境や種保全に焦点が当てられている。今後、遺伝的多様性についての理解や配慮も必要になるが、水路等を設計する際の水田水域に生息する魚類等の遺伝子情報が不足している。魚類の遺伝的多様性は同一種内における複数の遺伝的クレード(分岐群)によって支えられている。国内スケールでの遺伝的クレードの推定は、大規模なサンプル採捕を伴うことから、これまでメダカとホトケドジョウでしか行われていない。そこで、普通種として全国各地に生息し、近年では、環境変化等による生息量の減少も懸念されているドジョウを対象に、国内における遺伝的クレードを解明し、各遺伝的クレードの集団分布図を作成する。
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成果の内容・特徴 |
- 「田んぼの生きもの調査2006」において40道府県123市町村で採捕され、100%エタノールで固定されている444個体(各市町村1~14個体、標準体長67±23mm;平均±標準偏差)を分析サンプルに用いる。
- 各個体の尾鰭からDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAのシトクロームb遺伝子をPCR(Polymerase Chain Reaction)で増幅させ、シーケンサーで遺伝子の塩基配列(1,131塩基;遺伝子全体の99.2%)を決定する。
- 個体間の塩基配列の違いから、147種類の塩基配列(以下、「ハプロタイプ」)が特定され、H001~H147のタイプ番号を付ける(GenBank番号:AB473261~AB473407)。サンプルにおけるハプロタイプの豊富さは、ハプロタイプ多様度で0.9731±0.0033、塩基多様度で0.0435±0.028(それぞれ、平均±標準偏差)と計量される。
- 全てのハプロタイプと外群となる近縁種のハプロタイプを利用して、最節約法による系統樹を構築する(図1)。系統樹には3つの遺伝的クレードが出現し、各遺伝的クレードはブートストラップ分岐確率や外群との関係から、ヨーロッパ系、中国系、在来系とみなすことができる(図1)。
- 各採捕地点のハプロタイプから、各遺伝的クレードの地理的分布図を作成すると(図2)、ヨーロッパ系は関東北部から北に点在し、中国系は東北南部から西を主体に分布する。また、在来系の分布は全国的に広がる傾向を示している。
- 近年、ドジョウに混入したカラドジョウの意図せぬ放流に伴うドジョウへの遺伝的影響が懸念されているが、両種は系統樹上で明瞭に分岐している(図1)。本成果(シトクロームb遺伝子の塩基配列の分析)は種判別法としても利用可能である。
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成果の活用面・留意点 |
- 3つの遺伝的クレード間やカラドジョウ等との交雑状況については、新たな核DNAマーカー等の開発とそれによる分析が必要である。
- 遺伝的クレード分布図に基づいて、各地点のクレードを遺伝資源として保全するには、他地域個体の移殖・放流を慎むべきである。
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図表1 |
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図表2 |
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カテゴリ |
遺伝資源
水田
DNAマーカー
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