タイトル |
農業水路に設置するカエルの脱出対策の必要条件 |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所 |
研究期間 |
2009~2011 |
研究担当者 |
渡部恵司
森 淳
小出水規行
竹村武士
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発行年度 |
2009 |
要約 |
トウキョウダルマガエルを対象とするコンクリート水路からの脱出対策に関する実験結果である。傾斜角は30°以下にし、個体が水路底に着地できない水深(本実験では5cm)にするとともに対策工周辺の流速を極力落とすことで、脱出率を高めることができる。
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キーワード |
生態系配慮、農業水路、脱出対策、運動能力、行動特性、カエル類
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背景・ねらい |
農業水路における生態系配慮の一環で、カエル等を対象とするコンクリート水路からの脱出対策として、水路の一部に脱出用スロープ(以下「スロープ」)を持つ製品が開発・施工されつつある。その開発・導入にあたって対象種の運動能力や転落後の行動特性が把握・反映されていないことも多く、対策工が必ずしも十分に機能していない。 本研究のねらいは、指に吸盤を持たず、農業水路のコンクリート化の影響を受けやすいトウキョウダルマガエルを用いて、転落後に脱出しやすいスロープの傾斜角(以下「傾斜角」)、水路の水深及び流速を明らかにすることにある。
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成果の内容・特徴 |
- 傾斜角、水路水深及び平均流速(以下「流速」)を調節可能なベニヤ製の実験水路を製作し(図1)、屋内で実験している。異なる傾斜角・水深・流速の各条件において、45個体(頭胴長:平均38mm、標準偏差10mm)を水路に落下させ、スロープへの到達率及びスロープを通っての水路脱出率を計測している。
- 図2は、ビデオ映像の解析による落下個体の水路内での移動軌跡の例であり、スロープに到達しても登らずに静止する個体(図2の個体2)や再び泳ぎだす個体(個体3)がいることを示す。また流れがある水路において、流れに逆らう遊泳能力が低い結果が得られている。
- 図3は、異なる傾斜角条件(水深:5cm、流速:20cm/s)でのスロープの脱出効果の違いを示す。傾斜角が大きいほど脱出率は低下し、75°以上のスロープでは脱出できていない(図3左)。45°以上では傾斜角が大きいほどスロープを登る過程で個体が足を滑らせやすい(図3右)。したがって30°のスロープが最も登りやすいと考えられる。
- 図4上から、個体が水路底に着地できる水深は5cm未満と推定できる。図4下は、異なる水深・流速条件(傾斜角:30°)でのスロープ到達率を示す。水深2cm、流速5cm/sの条件では個体が自由に移動できるため、スロープに到達する個体は少ない。個体が水路底に着地できない水深5cmの条件、及び水深2cmでも流速20cm/s以上では、スロープへの到達が促されると考えられる。本種の流れに逆らう遊泳能力は低いことから、流速ではなく水深を調節して上記の条件にするとともに、対策工周辺では流速を極力落とす必要がある。
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成果の活用面・留意点 |
- 本成果は、生態系配慮の計画・設計を行う現場技術者や行政担当者をユーザーとして想定している。対策工の設計及び小動物の脱出対策の技術指針策定等に活用できる。
- トウキョウダルマガエルを用いての実験結果に基づいているため、対策を講じる現場における配慮対象種について、運動能力や行動特性を把握する必要がある。
- 対策工の設置後は、モニタリングを行いながら必要に応じて対策工の調整・改良を行うべきである。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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カテゴリ |
モニタリング
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