実験倫理を考慮したカエルの炭素安定同位体比分析法

タイトル 実験倫理を考慮したカエルの炭素安定同位体比分析法
担当機関 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所
研究期間 2009~2011
研究担当者 森 淳
小出水規行
竹村武士
渡部恵司
発行年度 2009
要約 切除しても生命に影響がないカエルの趾の炭素安定同位体比(δ13C)は、筋肉より有意に高いものの差は小さい。趾のδ13Cを、食物連鎖の区別や個体の移動履歴の推定に用いる筋肉の値とみなすことができる。
キーワード トウキョウダルマガエル、趾、筋肉、食物連鎖
背景・ねらい 動物の炭素安定同位体比(δ13C)が餌のδ13Cに近い値を示す性質を利用して食物連鎖の解析が行われている。δ13C(栄養段階を調べるには、これに加えて窒素安定同位体比)を用いて食物連鎖や移動生態を解析するには多くの個体を分析する必要がある。しかし、一定以上の広がりを持った空間における食物連鎖構造を解析するには多くの検体を殺さざるを得ず、悉皆的なサンプリングは不可能であった。したがって、実験倫理上の問題がない分析方法が必要である。 切除しても生存可能なカエル部位として趾に着目し、趾と筋肉など他器官との相関等を解析したうえで、趾のδ13Cでカエルの筋肉の値を代替可能であることを明らかにする。
成果の内容・特徴
  1. 各個体の趾と他器官のδ13C差(たとえば,趾δ13C-筋肉δ13C)をゼロと仮定し、両者のδ13C差の平均と比較したところ、いずれの器官とも差は有意である(p<0.01)。その差は趾-骨では1.1±0.5‰とやや大きいが、趾-筋肉が0.5±0.4‰(平均±標準偏差:以下同様)、趾-胃が0.3±0.4‰と小さい(表1)。
  2. 骨のδ13Cの平均値は、筋肉及び胃より有意に低い。
  3. 一般にδ13Cを用いた食物連鎖解析には筋肉を用いる。趾と筋肉の間の回帰式は、y=0.88x-3.25(R2=0.70)となる(図1)。この回帰式は生息地によって異なる可能性がある。趾のδ13Cは筋肉に比べてやや高い値を示し、その差は有意であり、例えば異なるδ13Cを持つ複数の餌資源への依存割合の算出など、δ13Cの精密さが要求される場合は、回帰式を求めて趾のδ13Cから筋肉の値を推定すべきである。しかし両者の差は小さいため、個体が属する食物連鎖の区別や、個体群に移入した個体を識別する解析には、趾のδ13Cをそのまま筋肉の値とみなすことができる。
  4. 図2における個体番号6のように、各器官とも全体の平均δ13Cより1‰以上高い値を示した個体や、逆に個体番号10のようにいずれの各器官とも器官平均より1‰以上低い個体がみられる。これらの個体は別の生息地で生育した後に採補された個体群に参加したと推定される。
  5. 生息地周辺の餌資源のδ13Cの空間分布を合わせて把握することにより、個体群の移動分散などの解析に活用できる。
成果の活用面・留意点
  1. 水田生態系における食物連鎖においてカエル類は重要な役割を持つ。本成果により個体群の存続に影響を与えない多くのサンプリングが可能となる。このことにより、カエルの炭素安定同位体比の分布が解明され、これまで未着手だった水田生態系の空間構造の解析が可能となる。
  2. δ13Cの異なる餌資源の利用率の推定など、精緻なデータ分析が必要な場合には本研究の結果を基礎的情報とし、より詳細な部位別の分析が必要である。
図表1 233997-1.png
図表2 233997-2.png
図表3 233997-3.png
カテゴリ 水田

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