環境同位体を用いた水田主体扇状地における地下水の涵養源分類法

タイトル 環境同位体を用いた水田主体扇状地における地下水の涵養源分類法
担当機関 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 農村工学研究所
研究期間 2008~2010
研究担当者 土原健雄
石田 聡
吉本周平
皆川裕樹
増本隆夫
今泉眞之
発行年度 2010
要約 水田主体の扇状地において、環境同位体を指標として地下水の涵養源を分類する手法である。降水、水田からの涵養水、河川浸透水といった涵養源の分類、地下水における涵養源別の混合割合の算定、浅層・深層地下水の涵養源の差異を示すことが可能である。
キーワード 水田、扇状地、地下水、環境同位体、涵養源
背景・ねらい わが国の主要な水田耕作地帯を形成する扇状地において、地下水保全の手法を検討するためには、降水に加え、水田かんがいや河川といった涵養源の種類とその寄与を正確に把握する必要がある。しかし、時期により異なる農業水利用、地表水と地下水の交流現象が扇状地の水循環を複雑にしており、有効な調査解析手法、地下水の水文学的情報は十分とはいえないのが現状である。ここでは、水田農業主体の扇状地である手取川扇状地を対象に、浅層・深層地下水中に存在する環境同位体(酸素・水素安定同位体、放射性同位体トリチウム)を測定し、その分布特性から地下水の涵養源を分類する手法を提案する。
成果の内容・特徴
  1. 浅層地下水の酸素安定同位体比(δ18O)分布特性から、手取川扇状地の帯水層へは同位体比の小さい手取川からの河川水(以下、河川水)の浸透が生じており、扇央部右岸側から扇端部にかけて河川水の浸透領域が拡大していくのが示される(図1)。
  2. 酸素安定同位体比(δ18O)と水素安定同位体比(δD)の関係において、浅層地下水の混合線(傾き6.31)は、降水起源の水が分布する天水線(傾き8.05)と水田における蒸発の影響を受けた水が分布する蒸発線(傾き4.71)の間に位置する(図2)。これより、浅層地下水は、天水起源と水田涵養起源の水の混合により形成され、さらに同位体比の小さい河川からの浸透水の混合の影響を受けていることが示され、河川水、降水、水田といった涵養源の分類が可能である。
  3. 浅層地下水の涵養源として、河川水、降水、水田からの涵養水を選定し、それぞれの平均同位体比を涵養源が持つ成分(端成分、図2中のEM1,EM2,EM3)とする。田面水の同位体比は湛水中の蒸発により、蒸発線上でほぼ線形的に変化するため、水田からの涵養水は田面水と河川水の中間値をEM3として適用している。各端成分からの距離で混合割合を計算し、各涵養源からの浅層地下水への寄与を推定することが可能である(図3)。図1のzone2における河川水浸透が浅層地下水へ寄与する割合は77%、最も河川から離れたzone4における寄与割合は18%と推定できる。
  4. 浅層・深層地下水の水位は連動して変化するが、酸素安定同位体比は経年的に約1‰の差を有し(図4)、また硝酸態窒素は浅層地下水からのみ検出される。さらに、トリチウム濃度から、浅層地下水は近年涵養された水と推定されるのに対し,深層地下水の滞留時間は60年以上と推定される。これより、浅層からの深層への鉛直方向への浸透よりも水平方向の地下水流動が卓越し、水田涵養の深層地下水への影響は極めて小さいといえる。このため、深層地下水の保全・管理には水田以外の涵養源を考慮する必要があると判断できる。
成果の活用面・留意点
  1. 地下水に涵養源の情報を付与することで、地下水賦存量の評価、揚水量を含めた地下水管理、流出した地下水が水温・水質環境に及ぼす影響の評価への活用が期待できる。
  2. 天水線、蒸発線は地域により異なるため、個別の観測結果に基づく検討が必要である。
図表1 234580-1.png
図表2 234580-2.png
図表3 234580-3.png
図表4 234580-4.png
カテゴリ 水田 水管理

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