タイトル |
イネ穂いもち圃場抵抗性遺伝子Pb1の単離と遺伝子進化の過程解明 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2003~2010 |
研究担当者 |
林 長生
井上晴彦
加藤恭宏
船生岳人
城田雅毅
清水武彦
金森裕之
山根弘子
松本 隆
矢野昌裕
高辻博志
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発行年度 |
2010 |
要約 |
イネ穂いもち圃場抵抗性の原因遺伝子Pb1を単離し、遺伝子の構造および発現特性から長期間にわたって抵抗性が安定である理由の一端が解明された。また、穂いもち抵抗性獲得に関わる遺伝子進化の過程を明らかにした。
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キーワード |
イネ、穂いもち、圃場抵抗性、Pb1、安定性、遺伝子進化
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背景・ねらい |
穂いもちは、収量や米の品質に直接影響することから薬剤による防除がなされている。Pb1遺伝子は、インディカ品種「Modan」に由来し、穂いもちに効果の高い圃場抵抗性遺伝子座として同定された。優性遺伝子のため交配育種による導入が容易であり、これを導入した穂いもち抵抗性の実用品種が多数育成され作付されている(図1)。品種の普及から30年を経ているが抵抗性が崩壊せずに持続しており、その安定性が注目されている。本研究では、Pb1遺伝子による抵抗性の持続性の機作を解明し、これを利用したイネの抵抗性育種開発をさらに効率化するとともに利用促進の理論的根拠を得るため、遺伝子単離および機能解析を行った。
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成果の内容・特徴 |
- Pb1遺伝子をマップベース・クローニングで単離した。その結果、Pb1遺伝子がコードするタンパク質は、これまでに単離されたイネいもち病真性抵抗性遺伝子がコードするRタンパク質と類似の構造をもつが、シグナル伝達の活性化に関わるPループの欠如など、真性抵抗性のRタンパク質とは明らかに異なる特徴を有していた(図2)。
- Pb1遺伝子のコード配列は、約60kbのDNA配列が2回反復したゲノム領域に存在していた(図3)。この構造中のPb1遺伝子コード配列の位置から、系統の進化の過程における約60kb配列の直列二量化の結果、プロモーター配列が上流に配位することにより発現するようになり、抵抗性遺伝子として機能するようになったと推測された(図3)。この推定プロモーター配列をレポーター遺伝子に接続して形質転換イネを用いて解析した結果、実験的にプロモーター活性が証明され、系統進化におけるPb1遺伝子の成立の過程が明らかになった。
- Pb1遺伝子をもつイネ系統においては、イネの生育に伴っていもち病抵抗性が強くなることが特徴である。Pb1遺伝子の発現パターンを解析した結果、イネの生育にともなって上昇することがわかり、各生育段階におけるいもち病抵抗性の強さとPb1遺伝子の発現量との間に強い相関がみられた(図4)。
- Pb1遺伝子が特定の生育時期でのみ強く発現するという事実は、抵抗性崩壊の原因となるいもち病菌の変異を誘発する選択圧の総量が比較的少ないことを示唆している。このことから、Pb1遺伝子の発現パターンがこの遺伝子による抵抗性の安定性の一因であると推測される。また、ゲノム領域の重複がPb1遺伝子の特徴的な発現パターンをもたらし、結果的に安定な穂いもち抵抗性の獲得に至ったと考えられる。
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成果の活用面・留意点 |
- 遺伝子の配列が決定されたことにより、DNAマーカーによる選抜がより容易になり、また抵抗性の安定性の理由が一部解明できたことから、より積極的なPb1遺伝子の品種導入が期待される。
- 今後は、Pb1遺伝子の機能をさらに解析することにより、Pb1遺伝子によるいもち病抵抗性の安定性に関わる要因が明らかになると期待される。
- 穂いもちに強いPb1遺伝子と葉いもちに効果の高い圃場抵抗性遺伝子とを集積することにより、より優れたいもち病抵抗性イネ品種の育成が期待される。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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カテゴリ |
病害虫
育種
いもち病
DNAマーカー
抵抗性
抵抗性遺伝子
品種
防除
薬剤
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