昆虫幼若ホルモンの輸送メカニズムの解明

タイトル 昆虫幼若ホルモンの輸送メカニズムの解明
担当機関 (独)農業生物資源研究所
研究期間 2008~2011
研究担当者 鈴木倫太郎
藤本瑞
塩月孝博
土屋渉
門間充
多勢祥
宮澤光博
山崎俊正
発行年度 2011
要約 昆虫幼若ホルモン(JH)結合タンパク質(JHBP)について、JH 結合型と非結合型タンパク質の立体構造決定に成功し、JHBPによるJHの血中輸送の仕組みを世界で初めて解明した。これらの立体構造情報を利用した農薬開発の加速化が期待される。
キーワード 幼若ホルモン、幼若ホルモン結合タンパク質、昆虫制御剤、構造ベース創薬
背景・ねらい 化学合成農薬は作物の安定的な生産に貢献してきたが、一方でその過度な使用は環境汚染や人体への害などの問題を引き起こすことが危惧されている。昆虫制御剤(=農薬)開発の分野では、その解決策の一つとして、害虫だけに作用する農薬を開発し、人への有害性や環境への悪影響を回避することが求められている。昆虫幼若ホルモン(JH)は脱皮・変態、生殖など様々な生理現象に関与する昆虫に固有のホルモンで、その血中輸送を司るJH結合タンパク質(JHBP)とともに、安全性の高い新規昆虫制御剤の標的として注目されている。本研究では、効果的な農薬開発を進めるため、カイコのJHBP とJHの立体構造解析を行い、ホルモンと輸送タンパク質の相互作用やJH輸送の仕組みの解明に取り組んだ。
成果の内容・特徴
  1. JHBPとJHの複合体を作成し、結晶中と溶液中における複合体の立体構造をX線結晶構造解析と溶液NMR解析によりそれぞれ決定した。結晶中と溶液中の立体構造は一致し、いずれの構造においてもJH(図1A、赤色)はJHBP内部のJH結合ポケットに格納され、ポケットの扉(図1A、青色)が閉じることで完全に外界から隔離されていた。こうして、JHは標的細胞以外の部分に結合することなく、また、血液中に存在するホルモン分解酵素による分解からも保護されて、標的細胞まで無事に送り届けられることが明らかになった。
  2. JHBP-JH複合体で観測された分子間相互作用に基づいてデザイン・作成した一連のJHBP変異体について構造機能解析を完了し、JHBPによるJH認識の分子構造基盤を確定した(図2)。
  3. JHBPがJHを取り込む仕組みを明らかにするために、JHBP単体の立体構造を決定し複合体の構造との比較を行った。その結果、JHBP単体では、JHが結合ポケットに侵入しやすいように、扉(図1B、青色)が大きく開いた構造をとっていることが分かった。
  4. JHBPとJHの複合体が標的細胞に到達すると、細胞膜近傍の誘電率の低下した疎水性の高い環境を感知してJHが複合体から解離することが明らかになった。
  5. 以上の結果を統合して、JHBPによる血液中でのJH輸送の分子構造メカニズムを解明した(図3)。
成果の活用面・留意点
  1. JHとJHBPの複合体形成を阻害する物質は、初期の段階でJHシグナルの伝達を停止することができるため、有力な昆虫成長制御剤となりうると期待される。
  2. JHBP-JH複合体の立体構造決定に成功したことにより、ホルモンとタンパク質の相互作用の仕組みが原子レベルで解明された(図2)。この立体構造情報を利用することで昆虫制御剤の精密な設計が可能になり、新たな農薬の開発が加速されるものと期待される。
  3. 本研究成果は、昆虫の生活環の様々な局面できわめて重要な役割を担っているJHのシグナル伝達について構造的知見を提供する初めての報告である。
  4. 本研究成果を取りまとめた論文は、ネイチャーアジア・パシフィックのウェブサイトで「注目の論文」として紹介された。
図表1 235258-1.jpg
図表2 235258-2.jpg
図表3 235258-3.jpg
研究内容 http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h23/nias02309.htm
カテゴリ 病害虫 カイコ 害虫 農薬 輸送

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