タイトル |
気象データからイネ葉の全遺伝子の働きを予測するシステムの開発 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2008~2012 |
研究担当者 |
永野 惇
佐藤 豊
三原基広
Bal Antonio
本山律子
伊藤博紀
長村吉晃
井澤 毅
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発行年度 |
2012 |
要約 |
風速、温度、日照等の気象データと田植え後の日数から、水田で生育するイネの葉のほぼすべての遺伝子の働き方(発現量)を予測するシステムを開発した。
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キーワード |
イネ、気象データ、遺伝子発現、統計モデリング、マイクロアレイ解析
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背景・ねらい |
2004年に日本型イネ品種「日本晴」の全ゲノム塩基配列が決定され、全遺伝子情報が明らかにされた。また、遺伝子それぞれの働き方(遺伝子の発現量)の網羅的な解析が可能となり、膨大な遺伝子発現データが蓄積している。しかし、これらのデータの応用利用は進んでいない。その原因のひとつに、データを取得したイネの栽培条件があげられる。これまでに行われた実験の多くは、人工気象室や温室等、安定な環境条件の下で行われている。一方、通常イネが栽培される水田では気象条件は時々刻々と変化しており、安定した環境条件で得られた遺伝子発現データが必ずしも水田で育つイネに適用できないことがわかってきている。そこで本研究では、「水田で生育するイネの葉」を採取し、全遺伝子の働き方を網羅的に解析した。得られたデータと気象データをコンピュータで統計的に大規模解析し、イネの葉で機能している遺伝子それぞれの働き方を予測するシステムの構築を試みた。
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成果の内容・特徴 |
- 2008年につくば市内の水田でイネ(品種:日本晴と農林8号)を栽培し、田植え直後から登熟期に至る461種類の葉サンプルを採取した。葉サンプルそれぞれについて、27,201個の遺伝子(イネのもつ遺伝子のほぼすべて)の発現量をマイクロアレイ法で解析した。
- 得られた全遺伝子の発現量データと、気象庁が計測した気象データ(風速、気温、湿度、日照、大気圧、降水量)、田植え後の日数、葉サンプルの採取時刻をもとに、大型コンピュータで統計的な解析を行い、日照や気温といった気象データの変化が、個々の遺伝子の発現にどのような影響を与えるか、すなわち遺伝子の働き方を決める「ルール」を明らかにした。
- イネの葉で働く17,616個の遺伝子のうち17,193個(97.6%)について、「気象データ」、「田植え後の日数」、「時刻」を入力すれば、遺伝子の発現量を予測できるシステムを構築した(図1;体内時計遺伝子の例)。
- 2008年と同様な葉サンプルを2009年に108種類採取し、17,193個の遺伝子の発現を実測した。2008年の遺伝子発現データから構築した予測システムに、2009年の「気象データ」、「田植え後の日数」、「時刻」を入力し、遺伝子発現量を予測し、上記の実測値と比較した。その結果、予測システムの信頼度は高く、非常に高い精度で遺伝子の発現量を予測できることを確認した(図2)。
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成果の活用面・留意点 |
- 今回明らかにされた遺伝子の働き方を決めるルールは、イネの生育状況を知るための「遺伝子発現マーカー」の開発につなげることができる。最適な施肥のタイミングを決める、出穂期を正確に予測する等、特定の遺伝子の日々の働き方を指標に、イネの栽培診断と将来の生育状態の予測が可能となる。
- 予測システムの精度をさらに向上させるためには、日本各地で採取した葉サンプルのデータを用い改良を進める必要がある。また、コシヒカリ等、日本で広く栽培されている品種に対象を変えていく必要がある。
- 近い将来、過去の気象データをもとに、日本国内の任意の地域での遺伝子の働き方の予測が可能となる。また、猛暑、冷夏等のデータと比較することで作況予測が可能になるとともに、不良環境での障害や収量低下に関わる遺伝子が特定できる。
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図表1 |
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図表2 |
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研究内容 |
http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h24/nias02405.html
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カテゴリ |
栽培条件
水田
施肥
品種
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