タイトル |
α-1,3-グルカンを利用した植物病原性糸状菌の自然免疫回避機構 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2010~2012 |
研究担当者 |
西村麻里江
坂口 歩
藤川貴史
西澤洋子
南栄一
矢野成和
古賀博則
飯 哲夫
|
発行年度 |
2012 |
要約 |
広範囲の植物病原性糸状菌が感染時特異的にα-1,3-グルカンを細胞表層に蓄積して宿主植物の自然免疫を回避していることを明らかにした。さらにα-1,3-グルカン分解酵素を導入したイネは病原性糸状菌に対して抵抗性を示した。
|
キーワード |
植物病原性糸状菌、自然免疫、PAMPs
|
背景・ねらい |
植物は、「β-グルカン」や「キチン」など、糸状菌の細胞壁を構成する多糖のパターンを認識して防御機構(自然免疫)を活性化する。これまでに、イネいもち病菌が植物表面のワックスを認識すると、イネが分解できない「α-1,3-グルカン」を細胞壁表層に蓄積して、キチンなどの細胞壁多糖を外部から認識されない状態にすることを報告した。この結果はイネいもち病菌がα-1,3-グルカンをイネの自然免疫の回避に利用している可能性を示唆していた。そこで本研究では、イネいもち病菌が実際にα-1,3-グルカンを利用してイネの自然免疫による認識を回避しているかを多方面から検討するとともに、他の植物病原性の糸状菌も同様の感染戦略をとっているかについて解析した。
|
成果の内容・特徴 |
- α-1,3-グルカンを欠損したイネいもち病菌は感染能を失った。また、この欠損株を接種したイネでは、防御関連遺伝子の発現が菌の植物体内への侵入前に既に誘導されていた。この誘導のタイミングは、野生型のいもち病菌を接種した場合より明らかに早かった。このことから、イネいもち病菌はα-1,3-グルカンを利用してイネの抵抗性応答を遅延させていることが明らかになった。
- イネいもち病菌、イネごま葉枯病菌、紋枯病菌は世界的に問題となっているイネの3大病害の原因菌である。イネごま葉枯病菌(子嚢菌)と紋枯病菌(担子菌)はイネいもち病菌(子嚢菌)と進化上非常に遠い関係にあるにもかかわらず、イネいもち病菌と同様に感染時にα-1,3-グルカンで菌体を覆うことを見出した。また、イネいもち病菌とイネごま葉枯病菌とは異なり、紋枯病菌ではα-1,3-グルカンが感染器官の構造維持に必須であることが分かった。
- 細菌由来のα-1,3-グルカン分解酵素を発現させたイネは、イネいもち病菌、イネごま葉枯病菌、紋枯病菌に同時に耐性を示した(図1)。また、これらの病原性糸状菌を接種したα-1,3-グルカン分解酵素発現イネでは防御関連遺伝子の発現が迅速に誘導された。以上の結果は菌体表面のα-1,3-グルカンの分解により植物の自然免疫が活性化されたことを示す。(図2)。
|
成果の活用面・留意点 |
- イネいもち病菌と進化上非常に遠い関係にある糸状菌が、植物への感染にα-1,3-グルカンを利用していたことから、他の多くの植物病原性糸状菌もα-1,3-グルカンを利用して植物の自然免疫を回避している可能性が高まった。α-1,3-グルカンは効果的な病害防除標的となる可能性が高い。
- α-1,3-グルカン欠損菌に対して植物が菌の侵入前に防御応答を活性化することが明らかになった。分解酵素や分解酵素生産菌によって菌体表面からα-1,3-グルカンを除去することにより植物の自然免疫を活性化させる、新しいタイプの病害防除法の確立などへの応用が期待される。
- 本研究により、植物病原性糸状菌が植物を認識するとα-1,3-グルカンを細胞壁表層に蓄積して感染に備えることが明らかになった。菌の感染を促す植物側の因子が明らかになれば,それを標的とする新たな病害防除法の開発につながるものと期待される。
|
図表1 |
|
図表2 |
|
研究内容 |
http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h24/nias02407.html
|
カテゴリ |
病害虫
いもち病
ごま
抵抗性
防除
|