タイトル |
植物における完全な選抜マーカー遺伝子除去技術の開発 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2010~2013 |
研究担当者 |
横井彩子
遠藤真咲
刑部敬史
雑賀啓明
土岐精一
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発行年度 |
2013 |
要約 |
形質転換植物体の選抜においては、抗生物質耐性遺伝子などのマーカー遺伝子の利用が不可欠であるが、これまで選抜後に不要なマーカー遺伝子を完全に除去する方法がなかった。本研究では、昆虫由来のトランスポゾンpiggyBacがイネにおいて足跡を残さず転移できることを明らかにし、植物におけるマーカー遺伝子の完全な除去技術を開発した。
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キーワード |
イネ、形質転換体、piggyBacトランスポゾン、マーカー除去
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背景・ねらい |
形質転換植物体を作出し、利用する場合、選抜に利用したマーカー遺伝子(抗生物質耐性遺伝子など)を除去することが望まれている。これまで、「動く遺伝子」であるトランスポゾンや部位特異的組換え酵素を用いてマーカー遺伝子を除去する方法が報告されているが、これらの方法では除去後に不要な塩基配列(足跡)が残ってしまう欠点があった。一方、昆虫由来のトランスポゾン「piggyBac」は動物細胞において足跡を残さず転移でき、完全なマーカー除去に利用されている。そこで本研究では、植物においてもpiggyBacが足跡を残さずに転移できるかどうかをイネの実験系で検証した。
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成果の内容・特徴 |
- ルシフェラーゼ遺伝子(LUC)の内部にpiggyBacトランスポゾンの反復配列を挿入したレポーターコンストラクトをイネカルスに導入し、piggyBacトランスポゾンの転移酵素(PBase)の発現下でpiggyBacが足跡を残さずに転移した場合、ルシフェラーゼの発光として捉えることができる実験系を構築し(図1A)、piggyBacのイネ細胞における転移能を解析した。
- レポーターコンストラクトを持つイネカルスに、PBaseを恒常的に発現させるベクター及びコントロールベクターを形質転換した。薬剤選抜後、PBase発現カルスではLUCの発光が検出されたのに対しコントロールでは発光が認められなかった(図1B)。さらに、LUCの発光が認められたカルスから抽出したゲノムDNAを用いて、LUC遺伝子のシークエンス解析を行ったところ、piggyBacが足跡を残さず転移したことが確認できた(図1C)。
- LUCの発光が認められたカルスから再分化個体を得て、PCR解析によりpiggyBacの転移および再挿入効率を算出したところ、解析した個体のうち70%以上の個体でpiggyBacのレポーターからの転移が認められた(表1)。また、30%の個体において、転移したpiggyBacが再挿入なしに欠失していることが明らかとなった(図1A、表1)。
- 再分化個体の自殖後代では、piggyBacが完全に除去された個体が得られた。以上の結果より、piggyBacを利用することで、高効率かつ完全なマーカー除去系が構築できると期待される。
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成果の活用面・留意点 |
- piggyBacは多くの動物種で転移が確認されているが、今回、植物であるイネにおいても転移することを確認した。イネ以外の植物における転移についても調べる必要があるが、今後、piggyBacは植物でも高効率かつ完全なマーカー遺伝子の除去に広く利用できると期待される。
- 動物では、piggyBacを用いて外来遺伝子を導入する研究も行われている。PBaseを一過的に発現させることにより外来遺伝子を導入する実験系が構築できれば、将来的には外来遺伝子を必要なときに染色体上に導入し、不要になれば完全に除去する実験系が構築できると期待される。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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研究内容 |
http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h25/nias02501.html
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カテゴリ |
薬剤
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