シュウ酸カルシウム針状結晶とプロテアーゼの相乗的耐虫効果

タイトル シュウ酸カルシウム針状結晶とプロテアーゼの相乗的耐虫効果
担当機関 (独)農業生物資源研究所
研究期間 2011~2014
研究担当者 今野浩太郎
井上尚
中村匡利
発行年度 2014
要約 キウイフルーツ、パイナップルなどの多くの植物に含まれるシュウ酸カルシウムの微細な針状結晶が、共存するプロテアーゼの働きを相乗的に強めることで顕著な耐虫活性(成長阻害・殺虫活性)を示し、植物の防御機構として機能していることを明らかにした。
キーワード シュウ酸カルシウム針状結晶、プロテアーゼ、耐虫性、昆虫-植物間相互作用
背景・ねらい キウイフルーツ、パイナップル、サトイモ、ヤマノイモ、ブドウなどの多くの植物が、その組織中にシュウ酸カルシウムからなる微細な針状結晶を大量に含んでいる。針状結晶の役割に関しては、植食性昆虫に対する植物の防御機構であるという仮説が有力であったが、その作用機構を実験的に検証した例は無かった。一方、針状結晶は植物組織中でしばしば他の耐虫性物質(キウイフルーツやパイナップルではシステインプロテアーゼ)と共存することから、針状結晶が昆虫の組織や細胞に穴をあけ、プロテアーゼが体内の標的に到達するのを容易にしてその耐虫効果を強めているという仮説(注射針仮説)を提唱した。そこで今回、キウイフルーツから精製した針状結晶とシステインプロテアーゼ(ブロメライン)をそれぞれ単独、あるいは同時に葉に塗布し昆虫に食べさせて仮説を検証した。
成果の内容・特徴
  1. キウイフルーツの果実を塩化セシウム重液(比重1.8)中ですりつぶし遠心分離することで、比重の重い(2以上)シュウ酸カルシウム針状結晶を精製・回収することに成功した。この針状結晶は長さが約0.1 mmの極めて尖った形状をもっていた(図1)。
  2. シュウ酸カルシウム針状結晶とシステインプロテアーゼが共存した場合、それぞれ単独で存在する時に比べ顕著な耐虫効果が認められた(図2、表1)。すなわち、エリサン孵化幼虫に針状結晶を41.7 μg/cm2の濃度で単独塗布したヒマの葉を1日間食べさせた場合(図2B)や、システインプロテアーゼを0.22 mg/cm2の濃度で単独塗布したものを食べさせた場合(図2C)は死亡率は非常に低く(0%)、無塗布葉を食べさせた場合(図2A)と比較しても幼虫は遜色なく成長した。上記の濃度の2倍量の針状結晶あるいはシステインプロテアーゼをそれぞれ単独塗布した場合でも耐虫性効果は弱かった。一方、上記の濃度の針状結晶(41.7 μg/cm2)とシステインプロテアーゼ(0.22 mg/cm2)の両方を塗布した葉を食べさせた場合、死亡率は69%と高くなった。また幼虫の体重もほとんど増加せず(図2D)、極めて強い耐虫性が観察された。幼虫の多くは2時間以内に異常行動を示した後に黒変・柔軟化し死亡した(図2D)。この結果は、針状結晶とシステインプロテアーゼが相乗的に強め合う耐虫効果を持つことを示している。またシュウ酸カルシウム針状結晶が微量共存することで、システインプロテアーゼの毒性が16-32倍増強されることも判明した(表1)。
  3. システインプロテアーゼが相乗効果を示すには針状の形態が必須であり、針状でないシュウ酸カルシウム無定形結晶とシステインプロテアーゼの組み合わせでは相乗的耐虫効果は全く見られず、幼虫は対照区と同様に成長した。
  4. システインプロテアーゼ以外にも、キチナーゼ等の酵素の耐虫性がシュウ酸カルシウムによって増強されることが明かとなり、シュウ酸カルシウム針状結晶が他の耐虫性物質の共存増強剤として働く可能性が示唆された。
成果の活用面・留意点
  1. 本成果は、キウイフルーツ、パイナップル、サトイモ、ヤマノイモ、ブドウなどのシュウ酸カルシウム針状結晶を含む多くの栽培植物の耐虫性機構を理解する上で重要な知見となった。
  2. 今後、本知見をもとに、害虫に対して強力な耐虫性を付加するような作物育種や、農薬等の増強剤としてのシュウ酸カルシウム針状結晶の利用が期待される。
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研究内容 http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h26/nias02608.html
カテゴリ 病害虫 育種 害虫 キウイフルーツ さといも 農薬 パイナップル ぶどう やまのいも

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