タイトル | 西太平洋で初めて分離されたバンドウイルカ由来ブルセラ菌(Brucella ceti) |
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担当機関 | (国)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究部門 |
研究期間 | 2019~2020 |
研究担当者 |
上野勇一 柳澤牧央 木野紗由莉 茂野悟 熊谷真彦 金森裕之 大﨑慎人 髙松大輔 勝田賢 丸山正 大石和恵 |
発行年度 | 2020 |
要約 | 西太平洋の海棲哺乳類から初めて分離されたBrucella ceti菌株は、人獣共通感染症の原因としても報告されている遺伝子型27に分類される株である。本菌株のゲノム解析で得られた塩基配列情報は、本菌の宿主特異性や人に対する病原性等を解析する上で有益な情報になる。 |
キーワード | Brucella ceti、人獣共通感染症、全ゲノム、遺伝子型、海棲哺乳類 |
背景・ねらい | ブルセラ症はブルセラ属菌により引き起こされる人獣共通感染症で、我が国では家畜伝染病予防法で監視伝染病に、感染症法で四類感染症に指定されている。ブルセラ属菌はヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ等の陸生哺乳類だけではなく、クジラやイルカ等の海棲哺乳類にも感染し、流産や骨髄炎等を引き起こす。本菌の宿主特異性や、各宿主に対する病原性については不明な点が多く、これらを明らかにする目的で多様な菌株のゲノム解析が実施されている。 本研究では、2018年に骨髄炎を呈したバンドウイルカから分離されたBrucella ceti(以下、B. ceti)の遺伝的特徴を明らかにするとともに、今後の解析に有用な全ゲノム配列情報を提供する。 |
成果の内容・特徴 | 1.B. cetiが分離されたバンドウイルカは、太平洋側の日本近海で捕獲され、骨髄炎を発症した(図1)当時は国内の水族館で飼育されていた個体である。当個体は、捕獲された時点でブルセラ属菌に対する抗体を保有していたため、西太平洋海域で既にB. cetiに感染していたと考えられる。 2.分離されたB. cetiのゲノム全長は約337万塩基対であり、3,155個の遺伝子を有する。また、当菌株はMultilocus sequence typing法を用いた遺伝子型別により、遺伝子型27に分類される(図2)。海棲哺乳類由来のブルセラ属菌は、遺伝子型に基づき3つのグループに大別されるが、遺伝子型27はいずれにも属さないユニークな遺伝子型である。 3.遺伝子型27に属する菌株については、北米太平洋岸と地中海において海棲哺乳類からの分離事例、およびペルーとニュージーランドにおいて人からの分離事例が報告されているが、西太平洋では初めての分離である。 4.分離されたB. cetiは、過去に日本近海のミンククジラから検出されたことがあるB. ceti由来の外膜蛋白質遺伝子と同一の外膜蛋白質遺伝子を保有している。このことは、日本近海の異なる海棲哺乳類の間でB. cetiが伝播しながら維持されている可能性を示唆する。 |
成果の活用面・留意点 | 1.漁業関係者、水族館関係者および水族館来訪客等にB. ceti遺伝子型27が海棲哺乳類から直接感染した事例は報告されていないが、人からの分離事例があることから注意を要する。 2.今回のゲノム解析で得られた全塩基配列情報は、本菌の宿主特異性および人に対する病原性を明らかにするだけでなく、海棲哺乳類におけるブルセラ属菌の感染実態を世界規模で把握する上でも有用である。 |
図表1 | ![]() |
研究内容 | https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/niah/2020/niah20_s10.html |
カテゴリ | 羊 豚 山羊 |