タイトル | 生き物が干からびても死ななくするために必要な物質を解明 |
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担当機関 | (国)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 |
研究期間 | 2006~2020 |
研究担当者 |
コルネット リシャー 渡邉匡彦 奥田隆 黄川田隆洋 Alina Ryabova Alexander Cherkasov Elena Shagimardanova Oleg Gusev |
発行年度 | 2020 |
要約 | 干からびても死なない生き物であるネムリユスリカが、乾燥・再水和過程で蓄積する物質を同定し、その役割を解明した。本成果で得られた物質を利用する事で、細胞の常温乾燥保存技術開発の扉を開くと期待される。 |
キーワード | 乾燥保存、休眠現象、メタボローム、エネルギー蓄積、抗酸化 |
背景・ねらい | 一般に、生物は体内から脱水が起きると、最悪の場合は死に至る。しかし、一部の生物は、完全に体内の水分が失われても死なないことが知られている。その現象は、乾燥無代謝休眠(anhydrobiosis)と呼ばれ、細胞や生き物そのものを常温乾燥保存する技術への応用が目指されてきた。ネムリユスリカは、乾燥無代謝休眠能力をもつ珍しい昆虫で、カラカラに干からびても死なない生物として知られている。これまで、ネムリユスリカの乾燥耐性機構を理解するために様々な解析が進められてきたが、どんな物質がネムリユスリカを干からびさせても死ななくさせているのか、その全貌は不明だった。 そこで、本研究では、ネムリユスリカ幼虫において、乾燥特異的に蓄積する物質の網羅的な同定を行い、生物が乾燥耐性を得るために必要な物質を明らかにする。 |
成果の内容・特徴 | 1.メタボロームと呼ばれる網羅的な代謝産物同定技術を用いて、ネムリユスリカの乾燥幼虫体内に蓄積している物質を調べた。その結果、以下が明らかになった。 2.乾燥保護物質であるトレハロースは、再水和過程で分解され、蘇生した幼虫のエネルギー源として利用されると同時に、ペントースリン酸経路を活性化させることで、幼虫の効果的な回復をサポートする抗酸化活性の駆動源としての役割を担っている。 3.クエン酸とAMPを蓄積することで、再水和時に必要なエネルギーを得るための急速なATP合成を実現させている 4.乾燥過程で生み出される老廃物を、キサンツレン酸やアラントインのような生体に毒性がない物質として蓄積することで、生体に及ぶ害が無いようにしている。 |
成果の活用面・留意点 | 1.メタボローム解析で明らかになった物質を利用することで、細胞や組織の乾燥耐性を向上させる方法の開発への道が開かれる。 2.今後は、乾燥特異的に蓄積していた物質を、細胞に導入する技術や、代謝経路をゲノム編集で調節することで、細胞や組織の常温乾燥保存技術の構築を目指す。 3.本研究の成果は、エネルギーフリーな生物素材の保存系の構築に貢献すると期待される。 |
図表1 | ![]() |
研究内容 | https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nias/2020/nias20_s16.html |
カテゴリ | 乾燥 メタボローム解析 |