タイトル | 簡易化したカイコにおける卵巣移植技術 |
---|---|
担当機関 | (国)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 |
研究期間 | 2020~2021 |
研究担当者 |
山田信人 立松謙一郎 飯塚哲也 瀬筒秀樹 内野恵郎 |
発行年度 | 2021 |
要約 | カイコの卵巣移植技術の簡易化手法である。凍結保存した卵巣を効率的に使用することができる。特に凍結保存していた有用な遺伝子組換えカイコ系統の再生に有効である。 |
キーワード | 凍結保存、個体再生、卵巣移植、遺伝子組換えカイコ |
背景・ねらい | カイコは生糸を得るために古来より飼育されてきた昆虫である。そのため数多くの品種が存在し、また学術的にも貴重な変異体系統も数多く維持されている。さらには、近年の遺伝子組換え技術やゲノム編集技術の発達によって、絹糸昆虫のシルクや新機能を付加したシルクを吐糸する遺伝子組換えカイコ系統が数多く作出されている。しかしながら、それらの系統維持には毎年一回は飼育する必要があるため系統維持にかかるコストが膨大となる問題がある。そのため、産業化を目指すにはこの問題を解決して系統維持の低コスト化を実現する必要がある。カイコにおいては生殖巣、及び精子の凍結保存技術は確立されているが手技が難しく高度な技術を要する。したがって、この技術を一般化させるためには一連の手技の簡易化を行う必要があると考えられる。 そこで、本研究では凍結-解凍した卵巣の移植手術における「卵巣移植」と「傷の処置」の2点に焦点を当て、卵巣移植技術の簡易化を行う。 |
成果の内容・特徴 | 1. 本技術は、「傷の塞ぎ方」(図1A、B)、「片側移植」(図2)によって構成される。 2. 従来の溶解パラフィンで覆う手法に変えて紙を乗せるだけという手法である。処置を施した個体の生存率は従来法と遜色ない(図1C)。この手法は、パラフィンを溶解させるような器具を必要とせず、また、使用するパラフィンの温度や量を気にする必要もなく、あらかじめ切っておいた紙の断片を傷の上に乗せるという簡便な手法である。 3. 片側移植(図2 実験B)によって従来の両方の卵巣を移植する従来の方法と比べ、ドナー卵巣(凍結-解凍した卵巣)あたりの得られる卵を減少することなく作業を簡易化させることができる(表1g)。これにより、より移植手術にかかる労力と時間を50%近く削減でき、簡便に凍結卵巣の再生を行うことが可能となる。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 本研究の紙を用いた傷の塞ぎ方はどのカイコ系統でも適用可能な手法である。 2. 片側移植では、ドナー卵巣由来の個体とレシピエント卵巣由来の個体が混在するため、どちら由来の個体なのか判別する必要がある。したがって、外見上判断可能である変異体系統に適用することが望ましい。遺伝子組換えカイコであれば遺伝子組換えマーカーによるスクリーニングによって容易に判別が可能であるため、本成果は遺伝子組換えカイコにおいて特に有効である。 3. 凍結保存技術に関する技術の発達によって、貴重な遺伝子組換えカイコ系統を病気の蔓延などで失ってしまう事態を防ぐことができる。 4. 絹糸昆虫のシルクや新機能を付加したシルクを吐糸する遺伝子組換えカイコの凍結保存に活用することができる。使用しない系統は凍結保存して使用する系統だけ飼育するという飼育系統の削減ができ、コスト削減につながる。 5. 医薬品の現薬となる遺伝子組換えカイコの製造においては、その安定供給のための凍結バンクが必須となる。その凍結バンクの利用に本研究を活用することができる。 |
図表1 | ![]() |
研究内容 | https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/nias/2021/nias21_s03.html |
カテゴリ | カイコ コスト 低コスト 品種 |