猛暑年に国内水稲の高温不稔の実態を調査、モデル化で将来予測も可能に

タイトル 猛暑年に国内水稲の高温不稔の実態を調査、モデル化で将来予測も可能に
担当機関 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境研究部門
研究期間 2018~2020
研究担当者 吉本真由美
酒井英光
石郷岡康史
桑形恒男
石丸努
中川博視
丸山篤志
荻原均
長田健二
田中研一
福田弥生
望月篤
成塚彰久
小川三菜美
岡田雄二
内藤健二
大戸敦也
丹野和幸
神田秀仁
中村充
中山幸則
坂口尚子
林健
発行年度 2021
要約 近年の夏季の異常高温下における、関東・東海・近畿地方の8府県の水田での水稲の開花期高温不稔の緊急調査から開発した不稔率推定モデルは、開花期5日間の日中平均穂温33°C以上の積算値を指標とし、気象条件から国内の水田での高温不稔の発生の可能性を予測できる。
キーワード 水稲、高温不稔、穂温、夏季高温、コシヒカリ
背景・ねらい 温暖化の進行に伴い水稲の高温障害による減収が懸念されている。特に、開花期高温不稔は、開花時に穎花が高温に曝されることにより受粉が阻害されて不稔になる障害で、これまで一部の熱帯地域や中国の長江流域などで被害が報告されているものの、国内の水田での発生の実態を把握した事例は少ない。近年夏季の異常高温が頻発し、国内での高温不稔の発生が懸念されたことから、本研究では、関東・東海・近畿地方の8府県(茨城、千葉、群馬、埼玉、岐阜、愛知、三重、京都)の公設試、農業団体等の協力のもと、記録的高温となった2018年と翌2019年に高温不稔の広域緊急調査を実施した。これにより現在の気候条件下の国内の水田での高温不稔発生の実態を把握するとともに、開花期の気象条件との関係をモデル化し、温暖化後のコメ生産の予測精度の向上や適応策の有効性評価に役立てる。
成果の内容・特徴 1. 埼玉県熊谷市で観測史上最高気温41.1°Cを記録した2018年には、例年の水稲の出穂期にあたる7月中旬~8月上旬に、数回にわたり広範囲で記録的高温となった一方、2019年には7月の天候不順から8月上旬の長期間の高温に転じるなど、高温の時期と持続期間は年により異なる(図1)。
2. アルコール水溶液で脱色した籾を光透視と触診で調べ、めしべが全く残っていないか、極初期に発育を停止した籾を不稔籾とし、全籾数に対する割合を不稔率と定義すると、2018年には出穂期に高温に遭遇した水田で例年より高い不稔率が認められ、最大約15%である。2019年は2018年より不稔率が低いものの、7月終わり~8月上旬に出穂・開花した水田で高めの不稔率(10%程度)が認められる(図1)。これらは通常の温度条件でも認められる生理的不稔(5%程度)よりも高い値である。
3. 不稔率は、開花期5日間の日中の平均穂温と高い相関があり、両年とも穂温が33°C付近を超えると不稔率が増大し始める(図2)。この結果から開発した不稔率推定モデルは、開花期の平均穂温の閾値33°C以上の積算値を指標とし、これにより、気象条件から国内の水田での不稔発生を予測することが可能となる。
4. 不稔率推定モデルを用いて、8府県の調査対象水田の夏季全体(7月上旬~9月上旬)の不稔率を推定したところ、調査数の少なかった時期・場所においても不稔率が高い場合があり、年々の猛暑時期と出穂のタイミングによっては現在の気候条件下でも高温不稔が発生している可能性がある(図3)。
成果の活用面・留意点 1. 出穂期の日中の穂温を共通の指標とすることで、年や地域をまたいだ時空間スケールでの高温不稔誘発の評価や将来予測、高温不稔耐性品種等の適応策の有効性の定量評価が可能となる。
2. 本研究成果は「コシヒカリ」を対象とした結果であり、他の品種では穂温の閾値や応答曲線が異なる可能性がある。
3. 本調査での最大15%程度の不稔の発生が収量に影響を及ぼしているかどうかは不明であり、今後、収量や収量構成要素を含め、不稔率以外の様々な収量関連形質との関係を検討する必要がある。
図表1 249098-1.png
研究内容 https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/niaes/2021/niaes21_s03.html
カテゴリ 高温対策 受粉 水田 水稲 品種

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