課題名 | ① 農業生物のゲノム解読の推進とゲノムリソースの拡充・高度化 |
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課題番号 | 2015027891 |
研究機関名 |
農業生物資源研究所 |
協力分担関係 |
国立大学法人岡山大学 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 ホクレン農業協同組合連合会農業総合研 究所 横浜市立大学・木原生物学研究所 国立大学法人香川大学 ライプニッツ植物遺伝学・作物研究所 リヨン大学 チューリッヒ大学 ヨーテボリ大学 アデレード大学 |
研究期間 | 2011-2015 |
年度 | 2015 |
摘要 | 1.コムギ6B染色体のBAC物理地図の構築について、BMC Genomics誌に論文として発表した。物理地図情報(Ver. 2.0)は、フランス国立農学研究所(INRA)の「Wheat URGI」サイトにて公開された。また、この物理地図と26年度に発表した概要ゲノム配列を統合し、2,015個の遺伝子配列を6B染色体上に位置付け、ゲノム構造の特徴を解析した。 2.MTP(Minimum Tiling Path)BACクローン間の重複調査やMTPクローンDNAを用いたメイトペア解析によるスカフォールディングを 進め、6,742個のBACクローンから、約6.5億塩基の高精度配列を得た。スカフォールドの平均長は94.4kb、最長は3.1Mbを越え、スカフォールドN50は469kbに達している。塩基配列解析から、6B染色体のrDNAクラスターとセントロメア周辺構造、イネやソルガム等の他作物とのシンテニー、また、局部的なゲノム再構成に関する詳細情報を獲得した。現在、ゲノムの再解読及び追加解読を進めており、染色体全体をカバーする参照配列構築を目指している。 3.Genotyping-by-Sequencing(GBS)法により、ジーンバンクが配布している「日本のコムギコアコレクション(JWC)」のジェノタイピングを行い、約20万箇所の一塩基多型(SNP)情報を取得した。これを利用して遺伝的集団構造を解析し、日本のコムギ品種が4 つの集団に分かれることを明らかにした。また、出穂到達日数と稈長に関するゲノムワイドアソシエーション解析(GWAS)を行い、既知の主動遺伝子を含む複数の有意なQTLを検出した。 4.昨年の成果であるアウス型イネ品種「カサラス」に続いて、インド型イネ品種「Naba」を用いてNGSによる全ゲノム塩基配列の追 加解読を実施し、241億塩基の配列を新たに取得した。さらに、「Naba」からNGSによるメイトペア解析(インサート距離3-4kb, 9-12kb, 17-23kb)を行い、約150億塩基の配列を得た。現在、「Naba」ゲノムにおけるde novoアセンブリ及びスカフォールディングを進めている。 5.コムギ品種「きたほなみ」に対して、26年度とは異なる濃度のEMS処理により突然変異を誘発したM2集団(1160系統+前年度再播種分96系統)を栽培し、表現型の変異を観察した。TILLING解析に用いるために、各系統からDNAを抽出した。また、これまで作成した変異系統集団について粒形を調べたところ、親系統と明確な差をもつ複数の変異系統を見出した。 6.26年度に引き続き、ツーハイブリッド実験の結果を検証するためのイネ遺伝子間の相互作用データを検証するために、RICE FRENDSデータベースによる遺伝子間での共発現遺伝子の共通性を解析した。その結果、DUF (A domain of unknown function)ファミリー間 及びファミリー内で共発現遺伝子に共通のものを持つ遺伝子のセットを多く見出した。 7.イネ完全長cDNAクローン198点(53件)、イネPAC/BACクローン7点(2件)、オオムギ完全長cDNAクローン2点(1件)、Tos17挿入変異系 統447点(74件)、遺伝解析材料セット14セットの配布(平成27年11月26日時点)を行った。配列変異描画ブラウザ「TASUKE」の機能・モ ジュール等をベースにして、MNU処理コシヒカリ変異体のデータベースを作成した。RAP-DBで公開しているアノテーションに基づいた イネ日本晴の遺伝子に対し、各SNPがどのように影響があるかについてSNPアノテーションソフトウェアSnpEffを用いてデータを作成した。得られたSnpEffアノテーション情報をもとにMNU-SNPのプロファイルを明らかにした。その結果、29%が遺伝子間領域、27%が遺伝 子の下流5kb、26%が遺伝子の上流5kb、7%がエクソン領域、8%がイントロン領域、2.06%が3'UTR、1.24%が5'UTRに導入された変異で あった。 8.ゲノム編集に用いるCRISPR/Cas9システムは、変異導入効率の高さ、発現コンストラクト作成の容易さからその利用が急速に広が っている。本年度はNickase型に改変したCas9を用いることにより、標的変異の特異性が植物においても向上することを明らかにした 。また、標的遺伝子切断とDNA修復の制御を同時に行うことにより、標的組み換え効率が向上することを明らかにし、さらに相同染色 体上の対立遺伝子を同時に改変することにも成功した。 9.piggyBacトランスポゾンの転移を利用してCRISPR/Cas9の発現カセットをイネゲノムに導入し、標的変異に成功した。またさらに 、再度転移させることにより、発現カセットを完全に除去することに成功した。本技術は栄養繁殖性作物において、外来遺伝子を残さない標的変異を行うのに有効であると考えられる。 10.ソルガムの葉の病変に関わる遺伝子を、QTL解析、ゲノム解析、トランスクリプトーム解析等を用いて同定した。ソルガムとスー ダングラスの交雑後代及びソルガム間の交雑後代集団を用いて、高収量性に関するQTL解析を行った。葉の長さに着目し、葉長、葉幅 、葉面積の調査、解析を実施し、第10染色体に出穂の早晩に関わらず、葉長を伸ばすQTL領域が存在することを明らかにした。 11.オオムギ小穂非脱落性遺伝子btr1及びbtr2を同定し、btr1の1塩基置換、btr2の11塩基置換が栽培オオムギでの遺伝子機能喪失の原因であることを明らかにした。野生オオムギは小穂脱落性であっても小穂軸節に離層が形成されないことを明らかにし、それにも関わらず脱落するのは、節の離脱領域で二次細胞壁層の形成が妨げられ細胞壁が薄く脆弱になるからであることを見出し、Btr1とBtr2の機能は二次細胞壁層の形成阻害であると結論づけた。栽培化起源地を解明するため収集地の明らかな約500系統の野生オオムギのbtr1 及びbtr2領域を配列解析し、栽培オオムギの配列と最も似通った配列を持つ系統を探したところ、栽培オオムギは現在のイスラエル周辺と、トルコ・シリア国境地帯で別々に栽培化されたと推定した。 12.アブラナ科野菜の重要害虫であるコナガにおいて、ジアミド剤抵抗性原因遺伝子探索の結果、タイ産ならびに国産の両方において、RyR遺伝子の特定のアミノ酸変異が抵抗性と強くリンクすることが確認され、この変異箇所がジアミド抵抗性判定のためのDNAマーカーとして利用できる可能性が高いことが示唆された。このDNAマーカーを対象としてコナガのジアミド剤抵抗性を判定するPCRベースの診断技術を開発した。 13.交雑可能な種間でも食性が大きく異なるアワノメイガ属をモデルに、種特異的な寄主植物の選択機構の解明とそれを維持していると考えられる性フェロモンの受容系の双方への関与が考えられる嗅覚受容体と匂い・フェロモン結合タンパク質(OBP/PBP)遺伝子群の 種間比較を行い、フェロモン結合タンパク質遺伝子群について、当該領域の遺伝子配置がOBP/PBP遺伝子以外も含めて、チョウ目昆虫 間で広く保存されていることを明らかにした。その過程で、コナガのGOBP1遺伝子が重複して、一方が染色体転座を起こしていること をFISH解析により明らかにした。 14.野生二粒系コムギに由来する赤さび病抵抗性遺伝子LrRW12を、GBS法を利用して6B染色体長腕の遺伝地図上にマップした。LrRW12 遺伝子の近傍に位置するマーカーを、6B染色体BAC物理地図上に位置づけ、LrRW12の位置を明らかにした。 15.27年度は生物研内所外から合計33件の依頼を受け、ゲノム解析支援を進めた。その内容の内訳はジェノタイピング及びPCR断片の 塩基配列解読計3件、BACライブラリー作製・スクリーング及び配列解読計21件、NGSによる塩基解読及びデータ解析計9件であった。 |
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