課題名 | 2 熱帯等の不良環境における農産物の安定生産技術の開発 |
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課題番号 | 2019030630 |
研究機関名 |
国際農林水産業研究センター |
協力分担関係 |
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 東北大学 東京大学 東京農業大学 京都大学 筑波大学 近畿大学 国立研究開発法人産業技術総合研究所 愛知県農業総合試験場 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究期間 | 2016-2020 |
年度 | 2019 |
摘要 | アフリカにおける食料と栄養の安全保障促進に資するため、アフリカの食料問題解決のためのイネ、畑作物等の安定生産技術の開発に係る課題については中長期計画において【重要度:高】と位置づけ、研究資源を重点的に投入した。「イネ増産」では、マダガスカルにおいて、陸稲NERICA4とリン欠乏条件で優れた生育を示すアウスイネのDJ123の交配系統を畑圃場で栽培し、在来品種に比して40%増の収量を示す系統を選抜した他、リン酸欠乏耐性遺伝子座Pup1を有して収量性が高く、生育期間が短いイネ7系統について、品種登録のための適応性試験を同国種子管理委員会(SOC)と共同で開始した。また、同国の中央高地土壌においてイネへのリン供給力指標となる土壌中酸性シュウ酸塩抽出リン含量が、室内分光計測で得られた分光反射スペクトルから迅速に推定できることを明らかにした。さらにリンの利用効率化についても、リンと土を混合したスラリーに移植苗の根を浸すリン浸漬処理が、表層施肥に比べて減肥・収量改善効果があるばかりでなく、生育日数も1週間以上短縮することから、同国の低温など生育後半のストレスが生じ易い圃場でより効果的であることを明らかにした。社経分野では、ガーナ北部の小規模ため池を用いた灌漑農家の経営条件、水利条件、社会条件を反映した営農計画モデルを作成し、灌漑稲・野菜作の技術導入に伴う所得向上、安定化効果を解明するとともに、技術導入にあたってのリスク許容度に応じた最適作付・水利用オプションも解明・提示した。「地域作物の活用」については、日・時間が異なる条件でも蒸散速度の比較を可能とする、熱画像を利用した新しい葉面気孔伝導度を提案するとともに、その指標を用いてササゲ遺伝資源における蒸散速度の遺伝的多様性を明らかにした。また、ホワイトギニアヤムの品種識別を簡易・迅速化する、SSRマーカーを利用した品種識別技術パッケージを構築して国際農研ホームページ上で公表した。「耕畜連携」については、モザンビークで調製したサトウキビの葉を原料とするケイントップサイレージとトウモロコシの茎を原料とするコーンストーバーサイレージが、良質で栄養成分も保持することを明らかにした。また、家畜給与試験では、コーンストーバーサイレージの採食性が最も優れており、ケイントップサイレージもネピアグラスサイレージと同様の、良好な嗜好性を示すことを明らかにした。さらに牛糞堆肥施用はササゲの子実収量を増加させるものの、ササゲの茎葉収量に対しては品種により、サツマイモの茎葉収量に対しては品種および灌漑の有無により、効果が異なることを明らかにした。加えて、モザンビーク南部の小規模農家が酪農を通じて効率的な耕畜連携を実現するための複合経営計画モデル(意思決定支援モデル)を作成し、農家の食料自給、リスク分散、農外所得の確保、乳牛の飼料自給、淘汰更新などを可能とする酪農経営の所得増大効果と成立条件を明らかにした。 不良環境に適応可能な作物開発技術の開発については、フィリピン、インドネシア、バングラデシュのイネ品種群への根長および窒素利用の効率化に関わるqRL6.1導入に関する戻し交配を継続した。フィリピンの良食味イネ品種NSIC Rc 160および多収イネ品種NSIC Rc 240にqRL6.1を導入したBC4F4系統について、異なる窒素条件でqRL6.1の導入効果を確認し、優良系統を選抜した。ネパールの4村で30のIR 64-Pup1+系統を評価した結果、IR 64および現地品種よりも高い収量を示す系統が認められた。イネの一穂籾数を増加させる量的遺伝子座SPIKEは、インド型品種IR64背景では収量水準が5 t ha-1を超えると穂数を減少させ増収効果が低下するが、収量水準が5 t ha-1以下では穂数を減少させず増収に寄与するため、開発途上地域の多くの低肥沃度環境や少量施肥栽培でその効果を発揮することを明らかにした。中国の現地ダイズ品種と耐塩性系統4つの組合せのF4、F5およびBC1F3世代種子を獲得した。また、現地選抜した耐塩・多収系統は中国の国新品種審査試験に参加した。ボリビア北部高地、南部高地および低地型のキヌア系統について、細胞生物学的活性およびカリウムイオン含量を解析し、南部高地群の塩耐性が高いことを明らかにした。 不良環境でのバイオマス生産性が優れる新規資源作物とその利用技術の開発については、タイのサトウキビとエリアンサスの属間雑種BC1有望系統から根の貫入力が強くバイオマス生産量が大きい育種素材を選定した。GRAS-Di法を用いて約3000の多型マーカーから構成されるエリアンサスの高密度連鎖地図を作成するとともに、本連鎖地図上に約50のSSRマーカーを位置付けた。多用途型サトウキビの安定栽培技術を開発するために、多用途型サトウキビ品種TPJ04-768の機械収穫特性を明らかにした。TPJ04-768は機械収穫が可能で、製糖用品種KK3と比べると、トラッシュの割合は約2倍になるが、破損していない収穫茎の割合が多く、収穫に要する時間が短いことを示した。サトウキビとススキ属植物との属間雑種F1には、サトウキビより低温条件下での光合成特性や高緯度地域でのバイオマス生産性が優れる系統があることを明らかにした。さらに、サトウキビとサトウキビ野生種との種間交配を利用してサトウキビ新品種「はるのおうぎ」を育成した。本品種は、株出し萌芽性に極めて優れ、茎数が多く、鹿児島県熊毛地域において春植え、株出しの両作型で原料茎重と可製糖量が普及品種より多い。 国境を越えて発生する病害虫に対する防除技術の開発については、ベトナム国内のイネウンカ抵抗性遺伝資源の保有状況について調査し、ベトナム北部では3つの研究機関がウンカ抵抗性品種の作出を行っていることを把握した。関連の文献調査により、バイオタイプの異なるウンカ系統を保有している機関はないと推測された。ベトナム北部の稲作農家が使用する殺虫成分は多様であり、成分使用回数が農家水田内のウンカ密度低下に寄与する程度は低いことを解明した。殺虫剤使用時の薬液の付着程度がウンカの生息部位で低いことが、低効果の一つの要因と考えられる。モーリタニア国立サバクトビバッタ防除センターと共同で、サバクトビバッタの孤独相成虫は、孤独相に典型的な繁殖特性(小卵多産)であることを示すデータ及び交尾時の卵巣の発達程度に関するデータを収集した。サトウキビ白葉病の健全種茎生産のために開発してきた個別技術を組み合わせると、白葉病の罹病率が低い種茎の生産が可能になることを示唆する実証試験結果が得られた。イネいもち病圃場抵抗性遺伝子pi21およびPB1を導入した雑種集団(BCnF4)を、フィリピン、インドネシア、バングラデシュ、ベトナム品種を中心に育成した。ベトナムでは、pi21とPB1を導入した系統の選抜が行われ、かつ遺伝子集積系統も選抜された。パラグアイ、アルゼンチン等の品種を用いたダイズさび病抵抗性遺伝子の集積品種育成の戻し交配を継続した。パラグアイNikkei-Cetaparとの共同研究で育成された2品種JFNC1、JFNC2は保護登録、商用登録、および育成者名への国際農研併記全てが完了し、ウェブサイトで公表した。アルゼンチン国立農牧技術院(INTA)と共同で育成している品種については2年目の多地点試験を実施した。ダイズ葉片へ紫斑病菌を噴霧し、1週間程度で病徴を確認できる接種法を開発した。従来の手法よりも小規模・短期間で紫斑病抵抗性を評価できるため、本手法を利用し、ダイズ遺伝資源から紫斑病抵抗性系統の選抜を実施している。 |
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