タイトル |
灌漑水が扇状地浅層地下水の硝酸性窒素濃度に及ぼす影響 |
担当機関 |
富山農業技術センター |
研究期間 |
1999~2002 |
研究担当者 |
高橋茂
大野智史
八木麻子
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発行年度 |
2002 |
要約 |
水に含まれる酸素同位体の自然存在比より求めた地下水に対する灌漑水の影響等から推定すると,扇状地における深さ数m程度の浅層地下水の硝酸性窒素濃度が非潅漑期間に高い傾向にあるのは,前作後の非潅漑期間に土壌に蓄積していた硝酸性窒素が潅漑期間に灌漑水とともに溶脱し,非潅漑期間に地下水に到達したためである。
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背景・ねらい |
扇状地水田地帯においては,降水に加え,灌漑水も浅層地下水の涵養源として重要であり,地下水の硝酸性窒素濃度に与える影響も大きい。また,水分子に含まれる酸素には3種類の安定同位体があり,標高が高い所の降水ほど重い同位体が少なくなるため,集水域の標高が高い常願寺川水系の灌漑水は重い同位体が少ない。そこで酸素同位体の自然存在比(δ18O値:16Oに対する18Oの自然存在比)を用いて,灌漑水が地下水の硝酸性窒素濃度に及ぼす影響を解明する。
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成果の内容・特徴 |
- 扇状地における浅層地下水の硝酸性窒素濃度は,数m程度の浅い井戸では季節変動があり,潅漑期間に低下し,非潅漑期間に上昇する傾向にある。しかし,数十m程度の井戸では,周年的に安定している(図1)。
- 井戸7付近のほ場40cm深で採水した降水由来の降下浸透水のδ18O値は-8.75‰で,灌漑水由来の降下浸透水のδ18O値は-11.05‰である。
- 1と同様に浅層地下水のδ18O値にも季節変動があり,潅漑期間より非潅漑期間の方が低い傾向にある。すなわち,地下水のδ18O値から,灌漑水起源の割合を推定すると潅漑期間よりも非潅漑期間の方が灌漑水起源の水の割合が高い(図2,3)。
- 水田作土下における土壌溶液中の硝酸性窒素濃度は,潅漑期間中は極めて低いが,非潅漑期間には高くなる(図4)。
- 井戸7付近のほ場(図4のA,Bほ場)における畦畔漏水を除いた4~6月の平均縦浸透速度は,3.31cm/dayで井戸の取水深度の5mまで到達するのに,151日間である。
- 浅層地下水における灌漑水由来の比率は非潅漑期間に高く,水田表層付近では非潅漑期間に硝酸性窒素濃度が高まることから,浅層地下水の硝酸性窒素濃度が潅漑期間より非潅漑期間の方が高い傾向にあるのは,非潅漑期間に表層から地下水までの土壌に蓄積していた硝酸性窒素が潅漑期間に灌漑水とともに溶脱し,非潅漑期間に地下水に到達したためである。
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成果の活用面・留意点 |
- δ18O値がおおむね1‰以上異なる水系(降水と灌漑水,2種類の灌漑水等)において,同様の方法により水の由来の割合が推定できる。
- この調査は,常願寺川右岸扇状地における井戸で,かつ井戸周辺の土地に占める水稲作付面積がおおむね50%以上の17地点で調査を行った。
- 降下浸透水及びその中の硝酸性窒素の挙動メカニズムについては,地下水の流動等も含めて今後の検討が必要である。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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図表4 |
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カテゴリ |
肥料
季節変動
水田
水稲
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