新規イネ出穂期関連遺伝子Ehd1の単離と解析

タイトル	新規イネ出穂期関連遺伝子Ehd1の単離と解析
担当機関	分子遺伝研究グループ
研究期間	2002～2004
研究担当者	井澤毅吉村淳山内歌子土井一行布施拓市矢野昌裕
発行年度	2004
要約	主に短日条件での開花の促進に働くイネEhd1遺伝子を単離し、Bタイプのレスポンスレギュレーターをコードしていることを明らかにした。Ehd1は進化上保存された花芽形成経路のHd1遺伝子の非存在下でも開花促進可能で、イネ特異的な花芽形成経路の存在を示唆している。
キーワード	イネ、短日植物、光周性反応、出穂期、Hd1、Ehd1、FT相同遺伝子長日植物シロイヌナズナの開花は、概日時計が制御するCO遺伝子が光信号伝達系との相互作用により、長日条件の朝方のみで転写活性化因子として働き、下流の花芽スイッチ遺伝子であるFT遺伝子の発現を誘導することで成立している。それに対して、短日植物イネでは、COの同祖遺伝子であるHd1遺伝子が、FTの同祖遺伝子であるHd3a遺伝子等を短日条件の朝方から昼にかけて発現誘導し、逆に、長日条件では抑制することで成立していることが明らかとなっていた。本研究では、短日植物イネに存在する新規花芽形成誘導遺伝子であるEhd1を単離し、その機能から、Ehd1を花芽誘導遺伝子ネットワークの中に位置づけることを目的とする。
背景・ねらい	長日植物シロイヌナズナの開花は、概日時計が制御するCO遺伝子が光信号伝達系との相互作用により、長日条件の朝方のみで転写活性化因子として働き、下流の花芽スイッチ遺伝子であるFT遺伝子の発現を誘導することで成立している。それに対して、短日植物イネでは、COの同祖遺伝子であるHd1遺伝子が、FTの同祖遺伝子であるHd3a遺伝子等を短日条件の朝方から昼にかけて発現誘導し、逆に、長日条件では抑制することで成立していることが明らかとなっていた。本研究では、短日植物イネに存在する新規花芽形成誘導遺伝子であるEhd1を単離し、その機能から、Ehd1を花芽誘導遺伝子ネットワークの中に位置づけることを目的とする。
成果の内容・特徴	１．Ehd1遺伝子は品種台中65号とアフリカ稲Oryza glaberrimaの交配後代を用いたQTL解析により同定され（図1A）、マップベース法により単離された（図2）。これまでの報告にあるEf1と同座である可能性が高い。２１．Ehd1遺伝子はBタイプのレスポンスレギュレータをコードしていた（図3）。ゲノム情報を用いた系統樹から判断して、長日植物シロイヌナズナには、進化上起源を同じくする遺伝子は存在しない。３．Ehd1は進化上保存されたHd1と独立に、イネの開花を促進可能である（図1B，C，D）。４．マイクロアレイ解析と定量RT-PCRを駆使することで、Ehd1遺伝子の下流に存在する遺伝子を約20個同定した。なかには、FT相同遺伝子が4つ、MADS box　転写因子が3つ含まれ、Ehd1が花芽形成スイッチ遺伝子の発現を制御していることが明らかとなった。５．以上の結果から、イネではシロイヌナズナに存在しない新規の花芽形成経路が、進化上保存された花芽形成スイッチHd3a遺伝子等の発現を制御できることから、様々な環境信号が植物種によって異なる信号伝達系路を伝わり、統合された形で、花芽形成スイッチ遺伝子の発現制御をするという多様な花芽形成分子機構が明らかとなった。図１図２図３１．既に単離された出穂期関連遺伝子との組み合わせでイネ出穂期を目的に応じてデザインする育種が可能になる。２．シロイヌナズナに存在しない遺伝子が主要穀物であるイネで開花に重要な機能をもつことが明らかとなったことから、二つの代表的なモデル植物間の本格的な比較生物学的解析のスタートとなる成果である。３．シロイヌナズナにはない花芽形成の信号伝達系路を明らかにすることで植物の多様な花芽形成機構の解明が期待できる。４．他の作物の育種に役立つ知見を提供する。
成果の活用面・留意点	１．既に単離された出穂期関連遺伝子との組み合わせでイネ出穂期を目的に応じてデザインする育種が可能になる。２．シロイヌナズナに存在しない遺伝子が主要穀物であるイネで開花に重要な機能をもつことが明らかとなったことから、二つの代表的なモデル植物間の本格的な比較生物学的解析のスタートとなる成果である。３．シロイヌナズナにはない花芽形成の信号伝達系路を明らかにすることで植物の多様な花芽形成機構の解明が期待できる。４．他の作物の育種に役立つ知見を提供する。５．今後の展望としては、レスポンスレギュレータとしてのEhd1が受ける環境信号の同定と短日で発現が高くなるEhd1遺伝子の発現機構の解明が重要な課題である。
図表1
図表2
図表3
カテゴリ	育種品種