トレハローストランスポーター遺伝子の単離と機能解析

タイトル トレハローストランスポーター遺伝子の単離と機能解析
担当機関 (独)農業生物資源研究所
研究期間 2006~2010
研究担当者 奥田隆
黄川田隆洋
岩田健一
金森保志
斉藤彩子
中原雄一
田中大介
渡邊匡彦
発行年度 2007
要約 トレハロースを細胞に大量に蓄積するネムリユスリカという昆虫において、トレハロースを特異的に細胞膜の内外に輸送する遺伝子の単離に世界で初めて成功した。
キーワード トレハロース、トランスポーター、膜タンパク質、乾燥耐性、糖代謝
背景・ねらい
トレハロースは、昆虫や植物、キノコ類、酵母、細菌などに存在する天然の非還元二糖で、他の糖類と同様に、これらの生物のエネルギー源として利用されている。トレハロースが細胞内へ入る際にトランスポーターと呼ばれる膜タンパク質が介在すること考えられるが、これまで多細胞生物から単離されていなかった。
クリプトビオシスという特殊な生理現象を持つネムリユスリカ幼虫は、乾燥に伴って多量のトレハロースを合成・蓄積して生体成分を保護していることがわかってきた。そこで、このネムリユスリカからトレハロースを特異的に輸送するトランスポーター遺伝子の単離を試みた。
成果の内容・特徴 1.トレハロースを大量に蓄積する能力をもつ昆虫、ネムリユスリカから、糖の輸送に関わる遺伝子(Tret1)を単離した(図1)。
2.Tret1遺伝子は、ネムリユスリカ幼虫が、脱水されるとともに誘導され、トレハロースを合成する器官である脂肪体に特異的に発現していた(図2)。
3.アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いた実験の結果、TRET1タンパク質は、細胞膜に局在し、トレハロースだけを細胞内外へ輸送していることが明らかとなった(図3)。
4.TRET1は高容量型のトランスポーターで、ネムリユスリカにおいては、このタンパク質により大量のトレハロースの細胞内外への移動を可能にして脱水状態に耐えていることが予想された(図4A)。
5.エネルギーに依存しないTRET1は促進拡散型のトランスポーターであり、細胞内のエネルギーの消費なしにトレハロースを細胞の内外へ出入りさせる(図4B)。
6.TRET1は哺乳動物細胞でもその活性を発揮し、それらの細胞のトレハロースの取り込み能力を高めることが証明された(図5)。
成果の活用面・留意点 1.Tret1遺伝子を導入してTRET1タンパク質を発現させることにより、自由自在にトレハロースを細胞内外に出し入れすることが可能になる。このことから、将来的には切り花の花持ちの延長、乾燥に強い作物の作出等の農業分野の他、細胞や組織の常温乾燥保存法開発による医療等の産業分野の発展にも貢献することが期待される。
TRET1タンパク質の高い基質特異性を利用して、新規のトレハロース類似化合物のスクリーニングにも利用でき、トレハロースの基礎及び応用研究が加速度的に進むことが考えられる。
カテゴリ 乾燥 くり 輸送

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