タイトル |
小麦の3つのGlu-遺伝子座の対立遺伝子によるパン比容積への影響 |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター |
研究期間 |
2006~2010 |
研究担当者 |
伊藤美環子
田引 正
船附稚子
西尾善太
長澤幸一
山内宏昭
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発行年度 |
2010 |
要約 |
小麦粉のタンパク質含量に大きな差がない場合、製パン適性の重要な指標であるパン比容積へのグルテニン遺伝子の貢献度はGlu-D1ではd>a、Glu-B3ではb>gである。Glu-D1d、Glu-A3d、Glu-B3gを全て持つものは生地が最も強いがパン比容積が小さい。
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キーワード |
小麦、グルテニン遺伝子、生地物性、パン比容積、Glu-D1、Glu-A3、Glu-B3
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背景・ねらい |
小麦の製パン適性を決定づける生地物性の強さはグルテンを構成する種子タンパク質である高分子量グルテニンと低分子量グルテニン組成によって大きく影響を受ける。高分子量および低分子量グルテニンをコードするGlu-遺伝子座はそれぞれ3つずつあるが、座乗する各対立遺伝子の生地物性の強さへの影響には差異がある。そこで、強い生地物性に比較的大きく影響していると考えられている3つのGlu-遺伝子座(Glu-D1、Glu-A3、Glu-B3)の対立遺伝子の組合せによる生地物性や製パン適性への影響を他の遺伝子座の影響を排除することができる集団を用いて明らかにする。
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成果の内容・特徴 |
- 勝系63号(「ゆめちから」)と北見81号(「きたほなみ」)の組合せ(表1)から育成された倍加半数体系統252系統の生地物性を各Glu-遺伝子座の2つの対立遺伝子について比較すると、Glu-D1dを持つ系統がGlu-D1aを持つ系統よりも強い。(図1A)。
- 有意差はみられないものの、Glu-A3dを持つ系統がGlu-A3fを持つ系統よりも強く、Glu-B3gを持つ系統がGlu-B3bを持つ系統よりも強い傾向がある(図1A)。さらに3つの遺伝子型の組合せ(Glu-D1-A3-B3)ではd-d-g>d-f-g(Glu-A3だけが異なる組合せの比較)であり、d-d-g>d-d-b(Glu-B3だけが異なる組合せの比較)である(図1B)。すなわち、生地物性への貢献度は、Glu-D1ではd>a、Glu-B3ではg>b、Glu-A3ではd>fである。
- 3つの遺伝子型の組合せでは、生地物性は各遺伝子座で生地物性への貢献度が高いGlu-D1d、Glu-A3d、Glu-B3gを全て持つ系統(d-d-g)の生地物性が最も強い(図1B)。
- 1.の倍加半数体系統のうち硬質(SKCS(単一穀粒分析装置)による硬度で分類)で、小麦粉のタンパク質含量に大きな差がない(10.0~11.5%)56系統のパン比容積を比較すると、Glu-D1aよりもGlu-D1d、Glu-B3gよりもGlu-B3bを持つ系統が大きい(図2A)。
- 3つの遺伝子型の組み合わせでは、Glu-D1-A3-B3がd-f-b、d-f-gである系統が最も大きく、続いてa-d-b、d-d-bが大きく、生地が最も強い組合せであるd-d-gはパン比容積が小さく、製パン適性が劣っている(図2B)。
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成果の活用面・留意点 |
- Glu-D1dを持ち、同時にGlu-B3bまたはgのどちらかを持つ小麦系統の製パン適性に関わる選抜に活用できる。
- パン用として生地が過剰に強い小麦は、比容積および操作性が劣ることがあるため、生地物性の弱い小麦粉とのブレンドやより強い生地物性が求められるパスタ等の用途に用いることが有効と考えられる。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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カテゴリ |
小麦
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