タイトル |
植物保護能力をもつ国内産バイオコントロール細菌の同定とゲノム解析 |
担当機関 |
(独)農業生物資源研究所 |
研究期間 |
2012~2014 |
研究担当者 |
竹内香純
野田なほみ
片寄裕一
向井喜之
沼寿隆
山田小須弥
染谷信孝
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発行年度 |
2014 |
要約 |
新たな微生物農薬を開発するために、植物を病害から保護する効果をもつ「バイオコントロール細菌」を国内産の細菌から3系統同定した。さらに、全ゲノム解析により各系統の特徴づけを行い、比較解析により植物保護能力に寄与する因子を明らかにした。
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キーワード |
バイオコントロール細菌、抗菌性、土壌病害、植物保護、環境保全型農業
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背景・ねらい |
植物を病害から保護する効果をもつ細菌は「バイオコントロール細菌」とよばれ、すでに一部の系統が微生物農薬として有効利用されている。微生物農薬による 病害防除技術は、環境への負荷が低いことなど多くの利点を有する。一方で、化学農薬と比較して効果が持続しないなど、生物ならではの問題点も多く、用いる 微生物の生態や表現型について理解を深め、改良を加えることが望まれる。我々はこれまでに、バイオコントロール細菌のひとつであるシュードモナス属細菌Pseudomonas protegens CHA0 株をモデルとして、植物保護能力に関与する因子を明らかにしてきた。しかし、CHA0 株を含め、既知のP. protegensは全て外国産であるため、国内での使用には制限があった。そこで本研究では国内での利用を目指して、優れたバイオコントロール能を有する国内産P. protegens の単離を試みた。さらに、それらの全ゲノム解析を行い植物保護能力に寄与する因子を同定した。
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成果の内容・特徴 |
- 様々な植物の根圏から国内産のシュードモナス属細菌2,800株を分離したのち、抗菌性物質生産株をスクリーニングし、その植物保護能力を調べた結果、既知のバイオコントロール細菌であるCHA0株と同等の植物保護能力を有する「P. protegens Cab57株」が得られた。本菌株は6.8 Mbpの環状DNAをゲノムとしてもち、抗菌性物質の生産に関わる遺伝子やその制御に関わるGac/Rsmシグナル伝達系の遺伝子など、本種に特徴的な遺伝子を有していた(表1)。
- P. protegens の近縁種である「Pseudomonas sp. Os17株」、「Pseudomonas sp. St29株」についても植物保護能力を調べたところ、Os17株は顕著な効果を示したのに対し、St29株ではその効果が劣っていた。両者の全ゲノム解析 により、それぞれ6.9 Mbp、6.8 Mbp の環状DNAをゲノムとしてもつことが明らかになった(表1)。
- Cab57株は植物病原性卵菌であるピシウム菌(Pythium ultimum)に対する抗菌性を有していた。これまでの研 究から、CHA0株ではGac/Rsmシグナル伝達系を負に制御するRetSの欠損変異により抗菌性が亢進することが知られていたが、Cab57株におい ても、RetSの欠損変異により抗菌性が亢進することが確認された(図1A)。また、CHA0株および別の既知のバイオコントロール細菌であるPf-5株 と、Cab57株のゲノムを比較した結果、3つの株の間で二次代謝産物の生産や環境適応への関与が予測される遺伝子クラスターに多様性が見出された。 Os17株、St29株のゲノムを比較した結果、Os17株のみがリゾキシン類縁体合成酵素遺伝子群を有することが明らかになった。さらにOs17株は少 なくとも5種類のリゾキシン類縁体を産生することが明らかになった。リゾキシン類縁体の合成酵素遺伝子のひとつである「rzxB遺伝 子」について、これを欠損するOs17株変異株を作出したところ、変異株では5種類のリゾキシン類縁体が全て検出されず、またピシウム菌および植物病原性 糸状菌に対する抗菌性が低下することが明らかになった(図1B)。これらの結果から、リゾキシン類縁体が本菌株の高度な植物保護能力の発揮に必要であるこ とが示唆された。以上の研究の一部を先端ゲノム解析支援により行った。
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成果の活用面・留意点 |
- 国内産の新たな微生物農薬の素材となりうる菌株としてCab57株およびOs17株を見いだした。
- 上記2種の菌株は、新たな抗菌性二次代謝産物の生産菌としても有用である。
- 今後、見いだした菌株の植物保護能力の安定性を高めることを検討し、実用化を目指す。
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図表1 |
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図表2 |
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研究内容 |
http://www.nias.affrc.go.jp/seika/nias/h26/nias02605.html
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カテゴリ |
病害虫
農薬
防除
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