非天然型アミノ酸を効率的にフィブロインに導入できる遺伝子組換えカイコの開発

タイトル 非天然型アミノ酸を効率的にフィブロインに導入できる遺伝子組換えカイコの開発
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門
研究期間 2013~2017
研究担当者 寺本英敏
小島桂
坂本健作
天野芳美
伊藤拓宏
伊良波史枝
発行年度 2017
要約 非天然型アミノ酸を効率良く認識するフェニルアラニル-tRNA合成酵素変異体を発現する遺伝子組換えカイコ系統を作出。従来よりも約30倍の効率でフィブロイン中に非天然型アミノ酸が導入でき、生産コストの低減を実現。
キーワード シルク新素材、非天然型アミノ酸、フェニルアラニル-tRNA合成酵素、アジド基、クリック反応
背景・ねらい シルクを繊維・医療・電子など幅広い分野へ利用していく上では、その性質を改変・制御するための実用的な手法の開発が重要となる。シルクの性質を改変・制御する既存の手法として化学修飾法と遺伝子組換え法がある。化学修飾法では望まない副反応や残留毒性の懸念があり、遺伝子組換え法では遺伝子としてコードできるペプチド・タンパク質成分以外は付加できないという制限がある。そこで我々は、化学修飾の反応点となるアジド基をもつ非天然型アミノ酸(4-アジドフェニルアラニン:AzPhe)をフィブロインに導入できる遺伝子組換えカイコを開発した。アジド基には、穏和で副反応の少ない化学反応(クリック反応)によって任意の機能成分を結合できる。実際に、蛍光分子やポリマーなどを結合させてフィブロインの性質を改変することに成功した。しかし、フィブロインに導入できるアジド基の量は1分子あたり約0.9個と少数に留まることに加え、高価なAzPheをカイコに大量投与する必要があり、実用性は不十分であった。そこで本研究では、AzPheを効率良くフィブロインに導入できる新たな遺伝子組換えカイコ系統の開発を目指した。
成果の内容・特徴
  1. 理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センターとの共同研究により、AzPheを効率良く認識するフェニルアラニル-tRNA合成酵素(PheRS)変異体を作出した(図1)。大腸菌を用いる変異体スクリーニング手法により、AzPheの認識効率に優れる新たなPheRS変異体4種(F432V、F432A、T407A/F432V、T407A/F432M)を作出した。
  2. 4種のPheRS変異体を後部絹糸腺でそれぞれ発現する遺伝子組換えカイコ4系統(H06、H07、H08、H09)を作出した。各系統の5齢幼虫にAzPheを投与し、フィブロインへのAzPheの導入効率を従来の系統(H03)と比較した。その結果、2つの系統(F432V、F432A)において従来よりも優れたAzPhe導入が観察された。
  3. F432VおよびF432A変異体を発現する系統(H06およびH07)について、AzPhe投与量とフィブロイン産生量の最適化を行った。その結果、乾燥飼料に対して0.05重量%の添加が最適であった。新しいH06系統と従来のH03系統とを比較すると、PheからAzPheへの置換効率は2.5%から6.7%へと約3倍に向上し、AzPhe添加量は0.5重量%から0.05重量%へと1/10に低減した(表1)。すなわち、PheRS変異体の改良によってAzPheの導入効率が約30倍に向上した。
  4. H03、H06、H07の各系統で産生されたAzPhe導入フィブロインの反応性を蛍光色素とのクリック反応により調べたところ、H06およびH07系統由来のフィブロインはH03系統由来のフィブロインよりも多くの蛍光色素が結合することが示された(図2)。
成果の活用面・留意点
  1. アジド基に対する選択的な化学反応によってフィブロインの性質を改変・制御する本手法は、薬剤やポリマーなど従来の遺伝子組換え法では導入できない機能成分をフィブロインに結合させる手法として活用が期待される。
  2. AzPheは高価であり、かつ、大量投与によってカイコの成育に悪影響を及ぼす恐れがあった。本成果によってAzPheの導入効率を大幅に向上できたことから、アジド基を導入したフィブロインを産業的に利用していくための基盤が構築できた。
  3. 今後は民間企業等との共同研究を積極的に進め、バイオマテリアルや機能性繊維素材としての利用展開を図っていく予定である。
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nias/2017/nias17_s20.html
カテゴリ カイコ 乾燥 機能性 コスト 薬剤

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