タイトル |
イネいもち病圃場抵抗性遺伝子の効果をなくしてしまうイネの遺伝子座 |
担当機関 |
(国研)農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 |
研究期間 |
2010~2017 |
研究担当者 |
井上晴彦
中村充
水林達美
高橋章
菅野正治
福岡修一
林長生
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発行年度 |
2017 |
要約 |
「さとじまん」(関東209)は、イネいもち病圃場抵抗性遺伝子Pb1を持つにも関わらず抵抗性を発現できない。「関東209」を解析した結果、Pb1抵抗性を伝えるサリチル酸感受性が低下しており、その原因遺伝子座はゲノム中の4ヵ所に存在する。
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キーワード |
イネ、育種、いもち病、圃場抵抗性遺伝子、サリチル酸
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背景・ねらい |
インド型イネ「Modan」に由来する穂いもち病圃場抵抗性遺伝子Pb1は、高度な発病抑制効果を示し、その抵抗性は安定(Durable)でPb1保有品種の普及後30年以上にわたって抵抗性崩壊がない。Pb1遺伝子を持つ神奈川県の奨励品種である「さとじまん」(関東209)は、コシヒカリ並の極良食味や、収量性が高いなどの優良形質を有する。しかしPb1遺伝子を保有していても、穂いもち病抵抗性が向上していないことが問題になっている。本研究では、「関東209」のPb1抵抗性が発揮されない問題を、遺伝学と分子生物学を用いて明らかにし、実用的なPb1の機能発現に必須の因子を明らかにすることを目的とする。
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成果の内容・特徴 |
- 図1は、いもち病激発圃場での3品種の登熟前の穂を示す。「関東HD2」はPb1遺伝を保有しないので穂首を中心として全体的に枯れ上がりいもち病抵抗性は弱いが、「月の光」はPb1を保有するので強い抵抗性を示す。一方、「関東209」はPb1遺伝子を持つにも関わらず、いもち病に対して抵抗性が弱い。
- 図2は、コシヒカリ愛知SBL(KASBL)と「関東209」(K209)に、いもち病を接種した時の遺伝子発現解析を示す。KASBLはいもち病処理によって、イネにおける病害抵抗性発現に重要な役割を演じるWRKY45遺伝子とNPR1遺伝子の速やかな発現誘導が見られる。一方、K209ではそれら遺伝子の発現の誘導が遅い。WRKY45やNPR1などの発現誘導するために必要な、植物ホルモンであるサリチル酸を測定してみると、どちらの品種にも同程度存在している(データは示さない)。このことから、K209はサリチル酸の不感受性株である。
- いもち病激発圃場において、原因遺伝子領域を絞り込むためのマッピングを行うと、染色体7番の22Mb付近の1.8Mbに、原因遺伝子領域が存在することが判る(図3)。
- Pb1抵抗性が「関東209」で発現しないメカニズムを示す(図4)。Pb1系統ではサリチル酸シグナルの刺激により、WRKY45はいもち病感染によって転写が活性化する。一方、「関東209」はサリチル酸シグナルの刺激が弱くなっており、WRKY45の遺伝子発現の活性化も弱くなっている。その結果、Pb1が存在していてもWRKY45を中心とする防御応答が活性化されないために、「関東209」はいもち病に弱い品種であると考えられる。
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成果の活用面・留意点 |
- Pb1遺伝子を保有するにも関わらず、遺伝的背景によってはその効果を発揮しない。
- 「さとじまん」「ほしじるし」など、Pb1抵抗性を発現しない品種において、本研究成果によるマーカーを用いることで、Pb1抵抗性を付与することが可能である。
- 原因遺伝子領域の絞込みを更に進めることによって、未同定であるサリチル酸に関わる因子が単離されることが期待される。
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研究内容 |
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/nias/2017/nias17_s07.html
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カテゴリ |
育種
いもち病
抵抗性
抵抗性遺伝子
病害抵抗性
品種
良食味
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