タイトル |
自給粗飼料による肉用牛生産システム導入で環境影響を低減できる |
担当機関 |
(国研)農業・食品産業技術総合研究機構 西日本農業研究センター |
研究期間 |
2013~2017 |
研究担当者 |
堤道生
中村好德
金子真
林義朗
山田明央
小林良次
寳示戸雅之
小笠原英毅
小野泰
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発行年度 |
2018 |
要約 |
放牧を含む自給粗飼料による肉用牛生産で生じる環境への影響は、気候変動、酸性化、富栄養化およびエネルギー消費の各評価項目で、輸入濃厚飼料に依存する慣行生産システムでの値を概ね下回る。草地への化学肥料施用を中止することで、さらに環境影響低減が可能である。
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キーワード |
環境影響評価、自給飼料、肉用牛生産、放牧、ライフサイクルアセスメント
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背景・ねらい |
わが国の肉用牛生産は、肥育段階でとくに輸入濃厚飼料に依存している。このことは、化学肥料の製造や飼料輸送時の燃料消費を通じて、肉用牛生産全体としての環境影響の増大につながっている。輸入に依存する濃厚飼料の給与量を削減し、自給率の比較的高い粗飼料を多給することで環境影響が低減されると推察されるが、肥育牛の増体の遅延により、生産物あたりでの環境影響が増大する可能性も考えられる。 そこで本研究では、肉用牛生産システムの環境影響をライフサイクルアセスメントの手法を用いて評価し、舎飼の慣行肥育と放牧肥育における増体量あたりの環境影響の比較、および慣行生産の素牛を慣行肥育あるいは放牧肥育する場合の枝肉重量あたりの環境影響の比較を行う。さらに、自給粗飼料のみを給与する肉用牛一貫生産における枝肉重量あたりの環境影響を慣行生産と比較するとともに、化学肥料や農薬を使用しない有機的管理の導入が環境影響に及ぼす効果を検証する。
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成果の内容・特徴 |
- 褐毛和種去勢雄牛肥育システム(9ヵ月齢以降)を慣行から周年放牧肥育に切り替えることで、肥育牛の増体量あたりの気候変動、酸性化、富栄養化への影響およびエネルギー消費がそれぞれ22、87、81および57%低減される(図1)。全ての評価項目において、飼料輸送プロセスでの環境影響低減による寄与が最も大きい。
- 慣行システムで生産される肥育素牛を、周年放牧システムで肥育すると、生産される枝肉の重量あたりの環境影響は、慣行肥育システムでの値を気候変動、酸性化、富栄養化への影響およびエネルギー消費のそれぞれにおいて8、53、47および36%下回る(図2)。
- 放牧を含む自家生産牧草のみの給与による肉用牛一貫生産が行われ、近年有機的管理が導入されている八雲牧場の去勢雄牛(日本短角種および短角系雑種)生産に係る環境影響は、有機的管理導入前、導入後ともに、酸性化、富栄養化への影響およびエネルギー消費において、慣行システムの値を下回る(図3)。気候変動への影響において、有機的管理導入後の値は慣行と同等であるものの、有機的管理導入前の値は慣行を上回る。有機的管理導入によりエネルギー消費が大幅に削減されており、これには化学肥料の施用中止が寄与している。
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成果の活用面・留意点 |
- 自給粗飼料多給型および資源循環型の肉用牛生産システム導入時における環境影響低減効果が示されており、J-クレジットやエコリーフ環境ラベルへの登録・認証申請時の参考となる。
- 慣行肥育は周年舎飼で行われ、肥育期間中に給与される飼料のうち稲ワラのみが自給され、チモシー乾草、アルファルファ乾草、トウモロコシ、大豆粕およびフスマは輸入される。
- 周年放牧肥育では、パリセードグラス草地およびイタリアンライグラス草地が放牧地として用いられ、自家生産のトウモロコシサイレージ、麦焼酎粕濃縮液およびイタリアンライグラス乾草が補助飼料として給与される。草地および飼料畑には化学肥料が施用される。
- 八雲牧場(北里大学獣医学部附属フィールドサイエンスセンター)では、放牧を含む自家生産牧草のみの給与による肉用牛一貫生産が行われており、近年では農薬散布および化学肥料施用が順次中止され、有機的管理が実践されている。放牧可能な期間(5~10月)には牛群のすべてが放牧飼養され、舎飼時には牧草サイレージが給与される。有機的管理導入の前後で繁殖成績や増体成績に大きな差異は見られない。
- 枝肉の歩留まりは、慣行、周年放牧肥育、八雲牧場(有機的管理導入以前および導入後)でそれぞれ64、62、55および57%である(実績に基づく)。
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研究内容 |
http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/warc/2018/warc18_s10.html
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カテゴリ |
肥料
病害虫
アルファルファ
イタリアンライグラス
大豆粕
とうもろこし
トウモロコシサイレージ
肉牛
農薬
繁殖性改善
輸送
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