葉面常在菌が分泌するエステラーゼ酵素の併用で病原菌による雑草の防除効果が高まる

タイトル 葉面常在菌が分泌するエステラーゼ酵素の併用で病原菌による雑草の防除効果が高まる
担当機関 (国研)農業・食品産業技術総合研究機構 農業環境変動研究センター
研究期間 2012~2018
研究担当者 北本宏子
植田浩一
黒瀬大介
釘宮聡一
田端純
光原一朗
吉田重信
鈴木健
発行年度 2018
要約 葉面常在酵母(Pseudozyma antarctica)が分泌するエステラーゼ(PaE)は、葉の表面を覆う脂質層を薄くする作用がある。雑草に病原菌を感染させて防除する生物防除法において、高濃度のPaE併用処理は、植物病原菌の感染を高める効果がある。
キーワード 生物農薬、植物常在菌、クチクラ層、酵素、酵母
背景・ねらい 近年、環境負荷の少ない農業資材や、農薬が注目されている。使用済みの生分解性農業資材を速やかに分解するために、農研機構ではイネに常在する酵母Pseudozyma antarcticaが分泌するエステラーゼ(PaE)が生分解性プラスチックを分解することを見出し、高濃度のPaEを生産する培養条件を選定している。この培養ろ液には、植物表面を保護するクチクラ層を薄くする作用があることも見出している(農業環境技術研究所平成27年度主要成果)。一方で、外来雑草は、しばしば大繁殖して除草が必要になるため、雑草の天敵である植物病原菌(生物農薬)によって標的雑草の繁殖を抑える技術(バイオコントロール)が各国で試みられている。除草のための過度の化学農薬の使用はコストがかかるだけでなく環境中への残留が問題となるが、バイオコントロールは持続的な雑草防除技術と考えられている。本研究では、培養ろ液中で葉クチクラ層を薄くする作用を持つ酵素本体を突き止めるとともに、この酵素を処理した葉の病原菌感染性を明らかにする。また、雑草に生物農薬として用いる病原菌を接種する際に本酵素をともに処理することによる相乗効果を明らかにする。
成果の内容・特徴
  1. トマトの葉を培養ろ液または培養ろ液の主要酵素であるPaEに浸漬したところ、クチクラ層の厚さが薄くなる。この結果は、PaEに葉のクチクラ層を薄くする作用があることを示す(図1)。
  2. トマト葉表面に、PaEと病原菌(灰色かび病菌)を併用処理した場所は、病原菌のみを処理した場所に比べて病原菌に感染しやすくなり、病徴が顕著に現れる。すなわち、PaEと病原菌を併用処理することで、葉が病原菌に感染しやすくなる(図2)。
  3. 雑草であるイタドリに対し特異的な病原菌であるさび病菌(Puccinia polygoni-amphibii var. tovariae)の胞子を処理する場合、PaEを含む培養ろ液を併用すると、落葉率が高まる。このことから、生物農薬である植物病原菌と培養ろ液を併用処理することで、雑草の天敵病原菌の感染率を上昇させて、生物農薬による雑草の抑制効果を高めることができる(図3)。
成果の活用面・留意点
  1. 生物農薬として用いる外来雑草特異的な植物病原菌のうち、一般的に防除資材として用いられているさび病菌の胞子は標的外来雑草に感染させることにより採集するため、大量培養が難しい。PaEは貴重な胞子の雑草への感染率を高め、雑草が繁殖する地域に病原菌を確実に定着させる効果が期待できる。
  2. 欧米で難防除外来雑草として問題になっているイタドリを事例に用いたが、国内で一般的な雑草であるイヌビエやエノコログサでも類似の現象が観察されるので、様々な草種の防除に応用できる可能性がある。
  3. P. antarcticaの培養ろ液中に含まれるエステラーゼPaEは生分解性プラスチック分解酵素として量産化が取り組まれており、実用化した場合は容易に入手できるようになる(特許第4915593号、第5849297号、第6413117号)。
研究内容 http://www.naro.affrc.go.jp/project/results/4th_laboratory/niaes/2018/niaes18_s09.html
カテゴリ 病害虫 コスト 雑草 除草 トマト 農薬 繁殖性改善 防除

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