同位体比分析により土壌中における137Csのエイジングの進行速度を評価できる

タイトル 同位体比分析により土壌中における137Csのエイジングの進行速度を評価できる
担当機関 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター
研究期間 2013~2018
研究担当者 若林正吉
高橋茂
松波寿弥
濱松潮香
八戸真弓
木方展治
山口紀子
発行年度 2020
要約 作土中の交換態画分について天然の133Csに対する137Csの同位体比を経時的に解析することで、土壌環境変化の影響を受けずに、土壌中の137Csのエイジングによる固定化の進行速度を評価できる。
キーワード 137Cs、エイジング、交換態画分、同位体比、カリ肥沃度
背景・ねらい 東京電力福島第一原子力発電所事故によって137Csが沈着した地域では、農作物の汚染リスクを長期にわたり管理する必要がある。土壌に沈着した137Csは、時間の経過とともに、雲母鉱物の層間へと固定されて溶出しにくくなる。137Csの「エイジング」と呼ばれるこの過程は、作物汚染リスクの経年低下をもたらす要因であるが、今回の事故に起因する137Csに関して、その進行速度を評価した研究はない。以前の研究では、エイジングの指標として、土壌中の137Csのうち、酢酸アンモニウム溶液で抽出される"交換態画分"の割合が経時的に解析されてきた。しかし、セシウムの交換態割合は、エイジングだけでなく、土壌環境の変化に際しても変動してしまうという問題がある。そこで、土壌環境変化の影響を受けにくい新たなエイジングの指標として、交換態画分のセシウム同位体比を経時的に解析する手法を開発し、茨城県つくば市にある黒ボク土水田を事例として、原発事故後の137Csのエイジングの進行速度を定量評価する。
成果の内容・特徴 1.2011~2015年にかけて、圃場における137Csの交換態割合は、天然の133Csと連動して、不規則に変動する(図1)。もともと土壌中に存在する133Csはエイジングを生じないため、これと連動した137Csの交換態割合の変動は、エイジングとは無関係な土壌環境変化に起因するものである。
2.交換態割合における137Csと133Csの同位体比(137Cs/133Cs比)を用いると、133Csと連動した土壌環境変化の影響による変動を排除し、原発事故由来の137Csに独自の動態を解析できる。交換態割合の137Cs/133Cs比は経年的に低下し、137Csのエイジングを反映している(図2)。
3.交換態割合の137Cs/133Cs比の経時変化に指数回帰を適用することで減衰率や半減期を算出し、エイジングによる137Csの土壌への固定の進行速度を評価することができる(表1)。
4.カリを施肥せずに管理していた試験区では、カリ施肥区に比べて、137Csの交換態割合や交換態割合の137Cs/133Cs比が原発事故初年目から低い(図1上段、図2)。カリ施肥は作物による137Csの吸収を抑制する有効な手段であるが、137Csの沈着直後の固定については、土壌中のカリ肥沃度が低いほうが、同じ由来の土壌でもより進むと考えられる。
5.稲わらの137Cs移行係数と133Cs移行係数の比(移行係数:稲わら中のセシウム濃度/土壌中のセシウム濃度)は、交換態割合における137Cs/133Cs比とおおむね等しく、土壌中の交換態画分に生じる変化がイネのセシウム吸収にも反映されていることを示す(図3)。
成果の活用面・留意点 1.作物の汚染リスクの経年低下の試算への利用を目的とした分析技術である。作物の汚染リスクの半減期は、エイジングの進行速度を反映した137Cs/133Cs比の半減期に、土壌中での137Csの滞留半減期を加味することで計算できる。
2.137Csと133Csの両者の交換態割合を変動させる土壌環境変化の因子としては、土壌中のカリやアンモニウムの消長、還元化などがある。
中央農業研究センター内の三要素試験連用水田において、標準施肥区(カリ有)とカリ無施用区(カリ無)内に設置された日本晴栽培区とコシヒカリ栽培区、合計4ヶ所でモニタリング調査した。
図表1 244505-1.png
研究内容 https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/tarc/2020/tarc20_s18.html
カテゴリ 水田 施肥 土壌環境 分析技術 モニタリング

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