タイトル | マウスは社会的敗北ストレスの負荷により上部消化管機能が障害される |
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担当機関 | (国)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 |
研究期間 | 2013~2015 |
研究担当者 |
守谷直子 山岸直子 後藤達彦 大給日香里 木元広実 豊田淳 鈴木チセ |
発行年度 | 2020 |
要約 | C57BL/6J系統のマウスは精神的ストレス(社会的敗北ストレス)を受けることで活動量が低下し、不安行動を示すようになると同時に、食事開始後30分間の摂食量は低下し、かつ胃消化物の排出速度が速まる。 |
キーワード | 精神的ストレス、胃排出、マウス |
背景・ねらい | ストレスが多い現代社会において、ストレスが発症の引き金となる不安障害やうつ病等の精神疾患の有病率が増加している。ストレスは、胃部痛、食後の胃もたれ感、早期飽満感等の上部消化管症状を呈する機能性ディスペプシア、反復する腹痛や便通異常等の下部消化管症状を呈する過敏性腸症候群等の機能性消化管障害の原因にもなる。機能性消化管障害の患者では不安や抑うつ傾向が高いことが知られており、両疾病は密接に関連していると考えられているが、ストレス環境下においてどのようなメカニズムで両病態が成立、進行するのかは不明な点が多い。 社会的敗北ストレスマウスは、慢性的に継続する精神的ストレスによりうつ症状を呈するうつ病モデルマウスである。そこで、本研究ではこれを用いて、精神的ストレスがマウスの消化管機能にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする。 |
成果の内容・特徴 | 1.社会的敗北ストレスを10日間負荷されたマウス(ストレスマウス)は、ストレスホルモンであるコルチコステロンの血中濃度が高くなるとともに、ストレス感受性器官である副腎の肥大および胸腺の萎縮が認められる(表1)。 2.ストレスマウスでは、5分間の高架式十字迷路試験(図1)において移動距離が短くなり、アームへの侵入回数も減少して、活動量が低下する。また、ストレスマウスは開いたアームでの滞在時間が短くなり、閉じたアームでの滞在時間が長くなる不安行動を示す(表2)。 3.ストレスマウスでは、食事開始後30分間の摂食量が低下する(図2)。胃は摂食に伴い適応性弛緩と呼ばれる反応を起こし、多くの食物を受入れられるように拡張するが、ストレスマウスではこの反応が抑制されている可能性が示唆される。また、摂取飼料が胃から小腸へ流れ出た割合を排出率として計算すると、ストレスマウスでは排出率が増加しており、胃運動が亢進していると考えられる(図2)。 4.ストレスマウスと対照マウスで、摂取飼料の糞への排出速度には差が認められない。 |
成果の活用面・留意点 | 1.社会的敗北ストレスとは、雄マウスの縄張り本能を利用して劣位のマウスに敗北経験(精神的ストレス)を負荷するモデルである。 2.社会的敗北ストレスモデルでよく用いられるC57BL/6J系統の雄マウスを用いた試験の結果である。 3.社会的敗北ストレスマウスは、ストレスによる上部消化管の不定愁訴の原因やメカニズムの解明に有益なモデルになると期待される。 |
図表1 | ![]() |
研究内容 | https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/nilgs/2020/nilgs20_s16.html |
カテゴリ | 機能性 |