タイトル | 最適な交配組み合わせを見つけゲノム選抜を行う自殖性作物の量的形質の改良方法 |
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担当機関 | (国)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究部門 |
研究期間 | 2012~2019 |
研究担当者 |
関根大輔 津田麻衣 矢部志央理 清水武彦 町田佳代 猿田正恭 山田哲也 石本政男 岩田洋佳 加賀秋人 |
発行年度 | 2021 |
要約 | シミュレーションで予測した交配後代の形質値に基づいて選定した、形質を大きく改良できる交配組み合わせのみを用いて、ゲノミックセレクションを行う方法である。本法は大豆の子実タンパク質含量など多数の遺伝子が関わる量的形質の改良に利用できる。 |
キーワード | 自殖性作物、ゲノミックセレクション、ゲノム選抜、シミュレーション、交配組み合わせ |
背景・ねらい | 品種改良では、優良な遺伝子の組合せを持つ系統を得るため、大規模な集団を育成し、その特性を評価する。これを効率化する手段として、大量のDNAマーカー情報から特性を予測するゲノミックセレクション(GS)が用いられる。GSを自殖性作物に適用するには、ゲノム解析の低コスト化と省力化が必要なうえ、様々な遺伝子の組み合わせの系統が得られるように、多数の人工交配を行うため、大豆のように花が極めて小さく、人工交配に手間のかかる自殖性作物への適用は極めて困難である。 そこで本研究では、シミュレーションによって、多数の交配組み合わせの後代の表現型を予測し、優れた後代が得られると判断した交配組み合わせに限定してGSを行い、交配数や特性評価の回数を抑えながら優良な後代を生み出す効率的な選抜法の開発を目指す。 |
成果の内容・特徴 | 1. シミュレーションにより交配後代の表現型値を算出し、対象とする全ての交配組合せのなかから、表現型値が最大となる組み合わせの交配を実施する(図1)。優れた後代が得られると判断した交配組み合わせに限定し、GSを繰り返すことで、交配数と形質評価の回数を抑えることができる。 2. 本法によって交配後代の表現型値を予測して選抜した上位2系統を交配した場合、期待される特性の改良の度合い(理論上の遺伝的獲得量)は、予測せずに表現型上位10系統間で交配を行った場合よりも大きく、少ない交配労力で優れた個体が得られる(図2)。手間はかかるが最も能力が高いものから10位までの交配組み合わせの交配を実施した場合の遺伝的獲得量が最も大きい。 3. 実証試験として、子実タンパク質含量が高い大豆品種「エンレイ」と低い「ヒュウガ」との組換え自殖系統(RIL)194系統を初期集団とし、種子タンパク質含量に関連する29座のゲノム情報による予測モデルの構築とシミュレーションを行い、全交配組合せ18,721組から選ばれた最良の交配組み合わせを用いた選抜を行う。その結果、後代の種子タンパク質含量は、その交配親やRIL親のエンレイよりも有意に高く、理論通りに形質値が向上した系統が選抜されており、本法により、大豆のように交配種子の獲得に手間のかかる自殖性作物での量的形質の効率的な改善が期待できる(図3)。 |
成果の活用面・留意点 | 1. 遺伝率が低く遺伝子数の多い収量形質等を対象とした改良では、大量のDNAマーカー情報を用いた高精度な形質予測モデルの構築、交配組み合わせ数および選抜サイクル数の増加などの対応が必要である。 2. 少数の遺伝子に支配される形質では、GSの3サイクル目程度で標的となる遺伝子座が固定するため、遺伝的獲得量の増加が頭打ちになる。さらに遺伝的獲得量を増やすには新たな交配組み合わせを実施する。 3. 本研究では、対立遺伝子数は2、かつ頻度に偏りがないとの前提で選抜効果の理論計算や実証試験を行っている。様々な種類の対立遺伝子が低頻度で混在する育種集団を対象とする場合には、同様の選抜効果が得られることを保証しない。 4. 実証試験で使用した条件(29遺伝子座を対象)での解析コストは、一般的なDNAマーカー選抜と同程度だが、形質予測モデル構築にこれより多数のDNAマーカー情報を必要とする収量形質等では、雑種後代の解析にも同程度のマーカー解析のコストがかかることに注意が必要である。 |
図表1 | ![]() |
研究内容 | https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/nics/2021/nics21_s06.html |
カテゴリ | 育種 コスト 省力化 大豆 DNAマーカー 低コスト 品種 品種改良 |