課題名 | (1)沿岸域における漁場保全と水産資源の造成のための研究開発 |
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課題番号 | 2019030634 |
研究機関名 |
水産総合研究センター |
協力分担関係 |
(地独)北海道立総合研究機構 香川県水産試験場 富山県農林水産総合技術センター 熊本県水産研究センター 佐賀県有明水産振興センター 徳島大学 広島大学 東町漁業協同組合 (一社)水産土木建設技術センター 海洋エンジニアリング株式会社 |
研究期間 | 2016-2020 |
年度 | 2019 |
摘要 | ・藻場において光合成活性や生長量に関し、機器を用いて藻体のクロロフィル蛍光を測定することによって現場で光合成活性を把握可能な測定手法を適用した。さらに、加速度ロガーを用いた流動の計測結果と比較することで、波浪等による流動が弱まる場所で海藻の生産量が低下傾向にあること、藻体中の窒素含量が海域の栄養塩環境評価の指標となる事を明らかにした。また、海藻類の健全度について、汎用の画像解析ソフトを用いて安価に評価可能なことを確認した。 ・名護屋湾において、漁期の進行に伴うCPUE(単位時間当たり漁獲量)の減少率を用いて資源量を推定する方法であるデルリ法により、刺し網を用いた海藻の食害魚であるブダイ駆除の効果を評価し、除去率を推定した。 ・長崎県五島の玉之浦湾においてガンガゼの駆除と浅所へのマメタワラ、ヒジキ、アカモク及びワカメ、深所へのマジリモクの植え付けによる母藻供給により、3年連続で藻場の再生と拡大に成功した。 ・岩手県宮古湾の海藻藻場の動態とエゾアワビの移動特性に関する調査を継続し、大型褐藻の生育が悪い年は生育の良い年よりも、広範囲に移動する傾向を確認した。ホシガレイの放流場である宮古湾のアマモ場、干潟域において得られた他の天然魚類の成長、食性調査の結果を解析し、ホシガレイの大量放流による他魚種への影響が認められないことを確認した。 ・コンブの飼育試験及び漁場の現場観測結果から、栄養塩濃度と底面流速の組み合わせにより決定される栄養塩供給の多寡が、コンブの生育に影響を及ぼすことを明らかにした。また、北海道東太平洋のコンブ漁場において、地理情報システム(GIS)及び既存の物理環境データを用いてコンブ生育に関わる環境条件を抽出し、生育の良否を支配する要因を用いてコンブ漁場のポテンシャルマップを作成した。 ・和歌浦干潟において、引き続き地域の地方自治体及び漁協青年部と共同でアサリが生息する干潟の表面を覆う被覆網を用いた食害防除などによりアサリ資源の再生を進めるとともに、生産されたアサリの販売を行った。 ・アサリ漁場において生息場所の干潟表面を覆いアサリを保護する被覆網が、他のマクロベントス及び線虫類に及ぼす影響を評価し、現存量と種組成に有意な差異がないことを確認した。 ・アサリのカゴを用いた垂下養殖では、飼育密度、捕食者の侵入及び海域の違いが成長・生残に影響を与えることが示唆された。 ・土壌のせん断強度を計測することにより干潟底質の硬度を評価するためのベーンテスターについて、市販のペットボトルオープナーに接続することで安価・簡便に干潟底質の硬度を測定する手法を開発した。 ・炭素・窒素安定同位体を指標として、干潟生態系の食物連鎖構造を評価するためのデータ・知見を蓄積した。得られた知見は、水産からみた干潟生態系の価値を多角的に評価し、環境改善及び水産重要魚種の回復・再生のために活用可能である。 ・大規模かつ持続的にサンゴ群集を修復・維持するため、大量のサンゴ幼生を供給する技術の開発を進めた。複数のスカート型収集ネットを用いてサンゴ幼生の収集装置を改良し、広範囲の親サンゴ基盤からの卵の収集が可能となった。 ・数値シミュレーションモデルによるサンゴ幼生の放流試験では、流況の実測結果を反映した形で波浪及び外洋の恒流の効果を取り込めるようにモデル計算式のパラメーターの改良を行い、収集装置から放出した幼生の拡散や着生範囲の予測精度が向上した。 ・サンゴ礁域の重要魚種であるナミハタについて、小型の発信器を取り付けたテレメトリー調査や行動観察を実施することで、同種は塊状のハマサンゴ類などの構造物への定着性が強く、夜間はその周辺の枝状ミドリイシ類などで摂餌することを把握し、異なるサンゴ群集の共存が同種の漁場として重要であることを明らかにした。また、同様に重要種であるハゲブダイでは、産卵回遊と思われる移動を初めて記録した。その産卵場は礁斜面の上部にある死サンゴが堆積したガレ場にある塊状、テーブル状、枝状のサンゴが点在する環境であることを明らかにした。 ・瀬戸内海において、水質に関する現地調査を継続するとともにデータ解析を実施し、内湾の基礎生産に影響を及ぼす栄養塩類の陸域からの供給の指標としてケイ酸塩を抽出した。また、植物プランクトンのサイズ組成の変化から、当該海域において貧栄養化が進行している可能性を示した。 ・有明海において取得された物理環境に関するデータを解析し、同海域における物質輸送や基礎生産等の低次生態系に強く影響する濁度分布の形成要因として、風及び底層流を抽出した。 ・有明海におけるタイラギの垂下実験では、溶存酸素濃度が高い場所で成長が良い傾向が示された。 ・東シナ海及び日本周辺を含む隣接海域において、調査船及び国際フェリーを用いた大型クラゲモニタリング調査を実施するとともに、日本海沿岸における大型クラゲの移動・分布予測モデルの高解像度化を図り、出現予測技術の高度化を進めた。 ・八代海において、Chattonella 属を対象に細胞密度、栄養塩濃度等の把握及びブイによるリアルタイム水質環境項目の自動モニタリングを実施し、結果をSNSや赤潮ネットを通じて関係者間で共有し、赤潮対策に有効利用された。 ・八代海における赤潮プランクトンChattonella 属のシスト、栄養細胞及び環境条件の長期データを用いて、シスト密度と栄養細胞初期個体群、夏季の赤潮との関係を解析し、赤潮発生に寄与する因子として冬~春季の気温と梅雨入り日の遅れを抽出した。 ・高知県野見湾で養殖魚をへい死させた有害プランクトンAlexandrium leei の遺伝子解析を行い、米国生物工学情報センター(NCBI)が提供する公共の塩基配列データベースGenBankに登録するとともに、高知県野見湾での発生要因が同種の増殖に好適な一時的な塩分低下と水温上昇及び日射量の増加であることを室内実験で明らかにした。 ・仙台湾において麻痺性貝毒原因種であるAlexandrium属のシスト分布データを蓄積・解析して分布特性を把握するとともに、栄養細胞の輸送シミュレーションモデルを構築し、その制御因子を検討した。 ・瀬戸内海東部及び中部海域の計25 地点において、多環芳香族炭化水素化合物 (PAHs)を分析するための海水サンプリングを実施し、調査を継続した。 ・ネオニコチノイド系農薬の海産甲殻類への影響リスク評価のため、複合毒性影響評価モデルを構築し、農薬によるリスク増減の季節変動特性を定量化した。 ・人工授精により作出したカキ幼生の発生異常、着底成功率等を指標とし、船底塗料用防汚物質を被験物質とした毒性試験法を確立した。 ・環境の異なる3海域(東北沿岸、瀬戸内海、四国南西海域)において、酸揮発性硫化物量やPAHs濃度を指標として実施した健全底質移設試験のデータを解析し、いずれの海域においても、健全底質移設による底質浄化効果を確認し、本試験法の汎用性を実証した。 ・ホシガレイ及びヒラメの窒素排出量と、ろ材のアンモニア除去速度を定量化し、閉鎖循環飼育の好適条件として適正かつ経済的なろ材量を把握した。また、得られた条件を元に安価な閉鎖循環システムを設計し、近隣の種苗生産機関等において実証導入するための準備を進めた。さらに、岩手県栽培漁業協会において、試験導入を行いコスト等の解析に着手した。 ?寒冷地での閉鎖循環飼育におけるろ過槽硝化菌の動態把握とその管理技術を開発する中で得られたろ材を、エゾアワビの閉鎖循環母貝養成に応用するため近隣漁協施設で実証運用した。 ?瀬戸内海7か所の干潟においてクルマエビ稚エビの出現量調査を実施するとともに、過去の出現時期と出現量の海域間差異のデータを整理し、近年は着底時期の遅延と短縮が認められることを明らかにした。また、種苗放流時期は天然の着底時期である8月よりも早い時期が望ましいことが示唆された。 ?瀬戸内海各地において採集されたクルマエビ稚エビのミトコンドリアDNA及びマイクロサテライトDNA分析を進め、血縁度に基づく分析が資源構造の把握、ひいては重要な親集団保護を目的とした資源管理ユニットの設定を通じて資源管理に貢献できる可能性が示された。 ・養成したヒラメ親魚の収容密度を変えた水槽試験を行い、人工授精による採卵率、総採卵数について、効率的な密度を明らかにした。また、ヒラメ天然魚の採卵率について、魚体サイズごとの違いを明らかにした。さらに、生餌の餌付けと配合飼料への切り替えにより、天然魚を通常の養成よりも4ヶ月早く大量の受精卵を得られることを実証した。 ・イワガキ稚貝の食害対策として、溝を設置した付着基盤を用いてイシダイ及びカワハギによる被食の影響を調査し、それぞれの魚種に対し安全な溝の幅を明らかにした。 ・イワガキ稚貝の食害生物としてレイシガイとイボニシとの共存が稚貝に与える影響を調査し、共存によりイワガキ稚貝の殻の形状が変化することを明らかにした。 ・アマモ場を利用したカキ養殖区域において、カキの生残、成長に「ストレッサー」として影響を与える貧酸素水塊及び有害微生物相が、アマモ場を利用しない通常の養殖海域と比較して、緩和、減少することを明らかにした。 ・アマモ場が発揮する様々な機能のうち、カキの大量へい死を防ぐ効果を評価するために、環境DNA分析手法を用いて、有害微生物相の多寡を定量化する手法を考案し、その手法の有用性が、世界各地のカキ養殖現場で確認された。 ・タイラギの貝柱湿重量、グリコーゲン含量等を指標として、その生息に影響を与える因子である浮泥層厚、底層の溶存酸素濃度の影響に関する野外試験を行い、浮泥層厚が厚いほど、また溶存酸素濃度が低い方が、身痩せすることを明らかにした。 ・イセエビの保護区の構築を目的とした人工構造物の設置に関して、イセエビによるウニに対する捕食の投石礁からの影響範囲を予測するモデルを試作した。 ・人工魚礁の周辺海域において、採水による環境DNA分析と流速計測及び魚群探知機による情報を収集し、環境DNAを指標として魚礁からの距離に対する各魚種の分布を指標化するための予備解析を実施した。 ・長崎県及び日本海西部海域のデータを用いてメダイを対象として開発した魚礁効果範囲推定モデルをイサキ及びヒラマサに適用し汎用化するために、水深、水温、塩分、流向・流速及び底質等の環境要因の影響を考慮したモデルへの改良を行い、魚礁設置効果について、その効果範囲がヒラマサに対しては魚礁中心から100 m程度、イサキに対しては魚礁近傍に限定されることを推定した。 ・キジハタ人工種苗を砂浜域の人工礁及び天然の岩礁地帯に放流して生残状況を比較し、人工礁においても天然と同様の資源造成効果があることを明らかにした。 ・開発したトラフグに対する新標識技術に関する現地指導を千葉県及び愛媛県に対して実施した。 〔アウトカム〕 ・機構が主導した長崎県五島の玉之浦湾における藻場の再生と拡大の取り組みに対し、玉之浦漁業集落が令和元年度「ながさき水産業大賞」を受賞した。 ・和歌山県、和歌山市及び和歌浦漁協を中心としたアサリ保護用被覆網の設置及び小学生の協力を得た資源調査活動による地域の取り組みの拡大により、アサリの生産量及び販売量が増加した。 ・沖縄県では、サンゴ礁再生技術を漁場整備事業に活用するための基礎調査に着手した。 ・瀬戸内海における調査結果は、水産庁事業「栄養塩の水産資源に及ぼす影響の調査」の基礎データとして活用された。 ・有明海における水質等の調査結果は、環境省業務「有明海二枚貝類の減少要因解明等調査」の基礎データとして活用された。 ・大型クラゲ国際共同調査事業による調査船調査結果を日本海区水産研究所HPにおいて逐次公表すると共に、有害生物漁業被害防止総合対策事業で得られた情報を加えた分布状況及び移動予測計算結果等をとりまとめた「大型クラゲの出現状況(国際フェリー調査結果等)について」を機構HPにおいて合計2回公表し、日本周辺海域における安心安全な漁業活動の遂行に貢献した。 ・2019年期の八代海におけるChattonella 属赤潮に関し、これまでに構築されたモニタリング体制を活用して短期動態予察を行うとともに、現場対応として緊密な情報共有及び養殖生簀の的確な足し網・沈下法の提案を行うことで、過去の同規模の赤潮発生年に比べ被害が大幅に軽減された。 ・岩手県内の種苗生産団体のヒラメ親魚養成水槽においても実証試験を開始した。 ・ヒラメのアクアレオウイルス症対策技術の普及のため、岩手県、福島県の担当者に技術講習を実施した。 ・平成30年度に開発したステレオカメラを用いたイセエビの頭胸甲長推定手法と魚礁効果の定量評価手法が、それぞれ水産庁委託事業「藻場回復・保全技術の高度化検討調査」での現地調査と水産庁委託事業「大水深域の漁場整備における効果評価と整備技術の開発」に活用され、事業の進展に貢献した。 |
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