2 熱帯等の不良環境における農産物の安定生産技術の開発

課題名 2 熱帯等の不良環境における農産物の安定生産技術の開発
研究機関名 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター 研究戦略室
企画連携部
農村開発領域
社会科学領域
生物資源・利用領域
生産環境・畜産領域
熱帯・島嶼研究拠点
協力分担関係 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
国立研究開発法人産業技術総合研究所
京都大学
東京大学
筑波大学
東北大学
岡山大学
近畿大学
愛知県農業総合試験場
三井製糖
研究期間 2016-2020
年度 2020
摘要 プログラムB「熱帯等の不良環境における農産物の安定生産技術の開発」(農産物安定生産研究業務セグメント)では、食料増産の推進とアフリカをはじめとする世界の栄養改善に向けて、低肥沃度や乾燥等の不良環境のため農業生産の潜在能力が十分に発揮できていない熱帯等の開発途上地域を対象として、農産物の安定生産技術の開発に取り組んだ。
令和2年度は、社会実装を意識して研究を推進し、研究成果を着実に論文として発表するとともに、合理的な根拠(エビデンスとしての論文)に基づく育種素材開発・技術開発を推進した。加えて、栄養強化等の課題の立案、選択と集中による課題の見直し、重要度と研究段階に応じた予算配分、PD裁量経費の再配分による研究の活性化、農研機構、民間企業を含む国内外の関係機関との連携強化、社会への情報発信等を通じて研究成果の最大化に努め、以下の進捗を得た。
アフリカにおける食料と栄養の安全保障促進に資するため、「アフリカの食料問題解決のためのイネ、畑作物等の安定生産技術の開発」に係る課題については中長期計画において【重要度:高】と位置づけ、研究資源を重点的に投入した。このうち「イネ増産」においては、セネガルで実施した4期の圃場試験をまとめ、アフリカ向けの品種 (NERICA1、NERICA4、NERICA L-19、Sahel108)にカサラスの根長遺伝子qRL6.1を導入した準同質遺伝子系統群(NILs)の生産性が11-36%向上することを示し、同遺伝子の窒素利用効率向上への寄与を実証した。さらに世界イネコアコレクションにおける、qRL6.1の遺伝子型13タイプのうち、根長の差をもたらす塩基変異はカサラス型のみで認められ、カサラス型qRL6.1が多くの遺伝的背景において効果が期待できることを示した。また、DJ123 x NERICA4個体群から選択した6つの高地向け育種系統を用いて収量試験を実施し、マダガスカルの品種登録プロセスへの推薦のために3系統を選択した。これらは、NERICA4と比較して、無肥料投入条件下で30?80%高い穀物収量を示した。加えて、収量性が高く生育期間の短いPup1遺伝子座を有するIR64遺伝的背景の7系統について、SOC(種子管理委員会)と共同で、マダガスカルでの品種登録に必要な1年目の適応性試験を完了し、2年目の試験を開始した。このほか、サブサハラアフリカにみられる養分欠乏土壌で収量制限要因の一つとなっている、イネの分げつ発生の抑制に伴う穂数不足に関し、日本型品種コシヒカリからインド型多収品種タカナリに導入した量的遺伝子座MP3が、マダガスカルの2.0~4.1 t ha-1の低収量環境において、分げつ発生を促進し、穂数および籾数を増加させることができることを示した。一方、少量のリン肥料を加えた泥を苗の根に付着させてからイネを移植するリン浸漬処理技術は、熱帯に広く分布するリン吸着能の高い土壌でも施肥効果が大きく、従来の施肥法に比べて生育日数を短縮し、生育後半の気温低下を回避することができることを明らかにした。本技術については農家の肥料投入力が乏しく、土壌のリン欠乏および生育後半の水不足や気温低下などが問題となる栽培環境において、イネの生産性を改善する実用的な技術として期待できることから、普及に向けた取り組みを進めた。社経分野においても、農家の経営条件、水利条件、社会条件を反映した確率的営農計画モデルを用いて、ガーナ北部の小規模ため池灌漑技術による所得向上・安定化効果、およびリスク許容度と投資効率に応じた最適作付・水利用オプションを解明した。「地域作物の活用」では、ササゲのミニコアコレクション(324系統)の3年間の評価データをとりまとめ、農業関連形質について優れた特徴を持つ6系統を選抜し、優良遺伝資源として提案した。また、熱画像を利用した個葉の気孔伝導度推定指標に関する技術マニュアルを作成し、関係する研究機関と共有するとともにオンラインで公開した。さらに、スーダンサバンナで優占する土壌型におけるササゲの圃場栽培試験の結果をとりまとめ、土壌型を考慮した安定性の解析にもとづく品種選抜を進めることで、長期的な平均収量の広範囲での改善が見込まれることを明らかにした。この情報は、ブルキナファソの共同研究機関を通じて政府の技術シートへの登録を申請する。ヤムについては地上部バイオマス非破壊評価技術に関する技術マニュアルを作成し、関係する研究機関と共有するとともにオンラインで公開した。また、ギニアヤムの遺伝資源集団や交雑集団、計537系統に対する主要農業形質の評価結果をとりまとめ、育種に利用可能な有望遺伝資源として、早晩性、収量性および塊茎品質形質の組み合わせに優れる系統を選抜したほか、遺伝解析及び特性評価を容易にし、効率的な育種及び栽培研究を可能とする、遺伝的多様性を保持したギニアヤム多様性研究材料セット(DrDRS)102系統を選定した。このうち66系統は国際熱帯研究所(IITA)遺伝資源センターにてウイルスフリー化を進めるとともに、残りの系統もインビトロ保存を進めた。さらに、ギニアヤムのゲノム情報を利用して、ギニアヤムの起源がサバンナと熱帯雨林に生育する野生種2種の雑種起源であることを明らかにした。今後、ゲノム情報を活用し、野生種を交配親として利用することにより、耐病性、ストレス耐性、収量性などに関わる性質をギニアヤムに導入して西アフリカの食料安全保障に寄与することができる。これまで開発・検証を進めたヤム品質関連成分の簡易測定法についてもプロトコルの整備を進め、IITAを通じて普及を進めている。「耕畜連携」では、モザンビークで選抜した乳酸菌の添加により、牧草や作物副産物などのサイレージ発酵品質の改善効果を確認した。また、モザンビークで入手できる飼料資源を活用して調製できる良質な発酵TMR(混合飼料)を給与することで、慣行的な飼養法に比べて乳牛の採食量と消化率を改善し、乳生産と収益性を向上できることを示した。この成果は、地域飼料資源を活用できるサイレージと発酵TMRの調製技術およびそれらを活用した牛乳生産性を向上できる乳牛飼養改善法としてとりまとめ、マニュアル化した。このマニュアルについては、現地で共同研究者、他の研究者、普及員、農家を集めて、マニュアルの説明と意見交換、配布を行う集会を開催した。さらに、モザンビークの小規模農家による乳牛飼養の存立条件を解明し、耕畜連携を通じて効率的に食料と飼料の確保、リスク分散、所得向上等を達成するための複合経営計画モデルを作成した。同モデルは、乳牛飼養の定着と耕畜連携の促進に向けた意思決定支援に有効である。
不良環境に適応可能な作物開発技術の開発については、フィリピンの主要な普及品種NSIC Rc 160およびNSIC Rc 240の遺伝的背景において、カサラスの根長遺伝子qRL6.1は、雨季の現地適応試験において効果が著しいことが示唆された。IR64背景で出穂性準同質遺伝子系統(NILs) 13系統を育成した。つくばでは1週間程度の早生~1ヶ月程度の晩生の変異を観察した。早生系統において、穂数が多い系統が確認され、出穂性QTLsの集積が分げつ数・穂数を制御する可能性が示唆された。ネパール現地圃場試験において、リン酸欠乏耐性遺伝子Pup1とリン酸利用効率(PUE)関連遺伝子座を集積したイネ系統について圃場で評価し、IR64および現地品種よりも高い収量を示す7つのIR64-Pup1+育種系統と3つのPup1+PUEの集積育種系を選抜した。耐塩性遺伝子Nclと根長QTL(qRL16.1)を中国のダイズ品種「綏農35号」に集積したF2世代を得た。ゲノム編集技術により作出したイネosera1変異系統後代を用いて、水分量制限による乾燥ストレス試験を実施し、イネosera1遺伝子の変異によりABA感受性および乾燥応答が強まる傾向が確認された。ダイズgmera1変異体における、水ストレス時に顕著に気孔を閉じ、バイオマスの低下を抑制する形質は、水ストレス耐性付与に有用であると考えられた。台風による風害は、インド型品種IR64の遺伝的背景をもつ染色体断片挿入系統群のうち長稈、穂重型の系統を中心に白穂(不稔穂)を生じさせたが、これらの形質に関連する遺伝的要因はイネの第4及び第7染色体に座乗していることを明らかにした。リン利用効率の高いイネ品種の代謝物の網羅的解析により、活性酸素除去に関わる代謝産物などがリン利用効率と密接に関わることが示された。これらはリン利用効率の高いイネを推定するための代謝物マーカーとして利用できることを示した。136のキヌア自殖系統コレクションを作出し、それらの遺伝子型と表現型の連関解析から多様性を明らかにした。このコレクションは自殖系統を基盤とした分子レベルでの育種の効率化、およびキヌアの高い環境適応性や優れた栄養特性の解明に活用できる。さらに、国際稲研究所(IRRI)と共同で育成したインド型イネ新品種の「カーチバイ」が、沖縄等の亜熱帯環境の地域で良好な生育を示し、収量も安定・多収であり、沖縄特産の焼酎・泡盛の加工用米としての醸造特性にも優れていることを明らかにした(プログラムDとの共同成果)。バイオテクノロジーを活用した不良環境耐性作物の開発に関するJIRCASワーキングレポートを刊行した。
不良環境でのバイオマス生産性が優れる新規資源作物とその利用技術の開発については、東北タイの干ばつの影響を受けやすい砂質土壌の圃場において、サトウキビとエリアンサスの属間雑種BC2集団から株出し栽培での株再生、収量性が優れる有望系統を選定した。SSRマーカーによって、タイのサトウキビとエリアンサスの属間雑種における雑種性を判定した。タイの圃場でエリアンサスの養分吸収量を求め、施肥量よりも多いことを明らかにした。エリアンサス遺伝資源5系統の3回目株出し栽培の収量を明らかにした。サトウキビ、エリアンサスおよびそれらの属間雑種を用いた圃場試験において貫入力が優れる系統は、無耕起区(土壌硬度高)において、耕起区(土壌硬度低)に比べ、根の減少程度が少ないことを確認した。
国境を越えて発生する病害虫に対する防除技術の開発については、ベトナム北部の夏作水田で、払い落とし法やスイーピングでウンカおよび天敵類の発生調査を行い、天敵としてカタグロミドリカスミカメ、アオバアリガタハネカクシ、カマバチ類、クモ類が存在することを明らかにした。サバクトビバッタが交尾する時の卵巣小管長の測定結果を解析したところ、群生相の雌の卵巣小管長はほぼ最大の大きさで揃っていたが、孤独相の雌の卵巣小管長は様々な大きさのものがあり、群生相は産卵間近にのみ交尾し、孤独相は卵巣の状態に関わらずいつでも交尾することを明らかにした。サバクトビバッタは密度依存的に交尾行動を変えていることが示唆された。アフリカで大発生するサバクトビバッタの群生相の幼虫は、日中、サハラ砂漠において集団移動する。周囲の温度に応じて幼虫は行動を変え、体温調節している。この行動特性に基づいて開発したバッタ専用のモデルを用いると、広域気象情報から体温を推定し、行動が予測可能になる。大規模圃場でサトウキビの健全種茎を新植して殺虫剤も用いて管理することにより、白葉病罹病株率が十分に低い種茎を生産することが実証された。これらの成果を、健全種茎生産・配布技術、病原体検出法、生長点培養法による健全苗生産の3章からなる「サトウキビ白葉病対策としての健全種茎生産・配布マニュアル」として英語とタイ語版を作成し、サトウキビ・砂糖委員会事務局から発行した。イネいもち病圃場抵抗性遺伝子をフィリピン、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、ラオスの品種に導入した雑種集団から有望系統を選抜した。アジアおよびアフリカで得られたイネいもち病菌菌系の病原性およびイネ遺伝資源の抵抗性に関する遺伝的変異の情報をもとに開発した判別システムは、いもち病抵抗性品種の開発や防除に活用できる。短期間に多数の品種のダイズ紫斑病に対する抵抗性を検定できる方法を開発し、アルゼンチンの紫斑病菌を用いて世界の大豆コアコレクションの80品種から4つの抵抗性品種を選抜した。
これらの研究によって得られた成果については、国際農研の「知的財産マネジメントに関する基本方針」に則り、「地球公共財」の観点から、研究成果情報、学術雑誌等への論文掲載、学会での発表等により積極的に公知化(公表)することを基本とした。なお公表にあたっては、事前に権利化の可能性、秘匿化の必要性等を十分検討した。この結果、9件の研究成果情報、3件の主要普及成果、48件の査読論文を公表した。プレスリリースも5件実施した。
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