寄主植物の化学防御に対抗する昆虫消化液中グリシンの役割

タイトル 寄主植物の化学防御に対抗する昆虫消化液中グリシンの役割
担当機関 蚕糸・昆虫農業技術研究所
研究期間 1995~1999
研究担当者 今野浩太郎
新保博
平山力
発行年度 1995
要約 各種鱗翅目昆虫幼虫の消化液中に分泌され、高濃度で存在するグリシンの役割を検討した。このグリシンは寄生植物の葉が化学防御物質として保持していると考えられる、強いタンパク変性作用及び栄養価低下作用を完全に阻止することが明らかになった。
背景・ねらい 植物は昆虫などの摂食から逃れるため、栄養阻害物質や毒性物質など種々の二次代謝物質を体内に蓄積している。これら植物の二次代謝物質は、草食昆虫などの寄主の選択範囲の決定に大きな影響を及ぼす。一方、草食昆虫は進化の過程でこれら二次代謝物質に適応・対抗する手段を発達させてきた。このため、植物の二次代謝物質や、昆虫の植物二次代謝物質に対する適応・対抗手段を究明する。
成果の内容・特徴
  1. 各種鱗翅目昆虫幼虫では消化液中に分泌された遊離のグリシンが存在し、その濃度はイボタを寄主としているイボタガ、サザナミスズメで待に高く、50μmoles/g以上(約0.4%)に達した(表 1)。
  2. イボタの葉抽出液とタンパク質を混合して反応させ、電気泳動で調べたところ、イボタの葉描出液は極めて強いタンパク変性・重合高分子化活性を持っていた(図 1)。また、イボタの葉抽出液で変性されたタンパク質は必須アミノ酸の一種であるリジンが特異的に減少していた。(図 2)。イボタ葉抽出液で変性されたタンパク質は栄養価を完全に失い、変性タンパク質を添加した人工飼料を食べたカイコは全く成長しなかった(図 3)。
  3. イボタ葉抽出液とタンパク質の反応時に1%のグリシンを加えたところ、グリシンはイポタ葉抽出液の持つ変性・重合高分子化活性(図 1)、リジン減少活性(図 2)、栄養価減少活性(図 3)をいずれも完全に阻止した。このことから、鱗翅目幼虫消化液中に見いだされたグリシンには、植物葉が持っているタンパク変性・栄養価減少活性に対する適応・対抗的役割があることが明らかになった。
成果の活用面・留意点 昆虫の消化液中に存在するグリシンが植物の二次代謝物質に対抗していることを示唆する以上の結果は、自然生態系における植物と昆虫の関係、圃場生態系における作物と害虫の関係を理解する上で重要な基礎的知見である。
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図表2 227298-2.jpg
図表3 227298-3.jpg
図表4 227298-4.jpg
カテゴリ カイコ 害虫

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