タイトル |
ポストゲノム研究で明らかになった新たな麹菌のアミノペプチダーゼ群 |
担当機関 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 |
研究期間 |
2006~2010 |
研究担当者 |
楠本憲一
鈴木 聡
服部領太
松下(森田)真由美
多田功生
丸井淳一朗
古川育代
天野 仁
石田博樹
山形洋平
竹内道雄
柏木 豊
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発行年度 |
2010 |
要約 |
我が国の醸造産業で麹菌として用いられているAspergillus oryzaeは、醸造食品の呈味性に重要なアミノペプチダーゼを多数生産する。ゲノム情報の活用によりこれまで知られていなかった新たな麹菌酵素群が明らかとなる。
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キーワード |
麹菌、タンパク質・ペプチド分解、アミノペプチダーゼ
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背景・ねらい |
Aspergillus oryzaeは日本醸造学会から「国菌」と認定され、我が国の伝統的発酵食品の製造に麹菌として利用されており、産業上重要な糸状菌である。アミノペプチダーゼは、ペプチドのアミノ末端からアミノ酸を遊離する酵素であるが、麹菌の同酵素は味噌や醤油等の呈味性に深く関与していることが知られている。本菌のゲノム情報から、30種類以上のアミノペプチダーゼ様遺伝子が見出されており、醸造工程の最適化のために、これらの遺伝子産物の醸造における役割の解明が望まれている。本研究では、これらの遺伝子産物の酵素活性や基質特異性、酵素化学的性質を明らかにし、麹菌のアミノペプチダーゼ群の全容を解明する。
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成果の内容・特徴 |
- A. oryzaeゲノム解析株(A. oryzae RIB40)のアミノペプチダーゼ様遺伝子34種のうち、大腸菌あるいは麹菌を宿主として発現させた場合、アミノアシルパラニトロアニリド(Aa-pNA)あるいはペプチドを基質としてアミノペプチダーゼ活性を有する酵素は23種類である。
- これらの23種類の酵素を基質特異性に基づいて分類すると、ロイシン等の脂溶性アミノ酸をペプチド等から遊離する活性を有する酵素が半数を占める一方、酸性アミノ酸、プロリン、グリシンを特異的に遊離する酵素は各々1分子種である。
- A. oryzaeで新たに明らかにしたプロリンを特異的に遊離するプロリルアミノペプチダーゼ遺伝子は、過剰発現させると不活性体を形成するが、抑制的な発現条件では、活性な6量体酵素として生産され、菌体の無細胞抽出液から精製することが可能である。
- 精製プロリルアミノペプチダーゼは、プロリンをアミノ末端に有するジペプチドに対して最も活性が高く、テトラペプチド以上の長さの基質に対しては活性が低い(表1)。
- 同様にA. oryzaeで新たに明らかにした分泌型ロイシンアミノペプチダーゼ(LapA)は、Aa-pNA基質のうちLeu-pNAの分解活性が最も高く、次いでその約40%の活性でPhe-pNAも分解する。本酵素はアルカリ側のpHで活性及び安定性が高い。反応の至適pHは8.5付近であり、pH7.5-11の間でpH8.5の場合の80%以上の活性を示す(図1)。
- LapAをコードするlapA遺伝子の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって解析すると、アルカリ条件(pH10.0)の培養で発現が誘導される(図2)。
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成果の活用面・留意点 |
- 本成果はゲノム解析株を用いて得られたものであり、今後、実用菌株の当該酵素生産様式を解明していくことが必要である。
- 遺伝子によっては、lapA遺伝子のように培養条件及び酵素反応条件や安定性を考慮することにより効率的な酵素生産が可能となる。
- 解明した麹菌の新規アミノペプチダーゼ群について、麹菌を利用した発酵食品の製造工程における熟成や呈味性等への関与を明らかにすることが必要である。
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図表1 |
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図表2 |
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図表3 |
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カテゴリ |
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