でんぷん老化が遅延する小麦新品種「やわら姫」

タイトル でんぷん老化が遅延する小麦新品種「やわら姫」
担当機関 (国)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター
研究期間 2007~2020
研究担当者 中村俊樹
伊藤裕之
石川吾郎
齋藤美香
谷口義則
池永幸子
氷見英子
中丸観子
発行年度 2020
要約 「やわら姫」は、DNAマーカー選抜によりでんぷん合成に関与する6つの酵素のうち4つを欠失させた品種である。でんぷんの老化の進行が遅く加工後のパンやうどんの硬化が遅延し、柔らかい食感を長く維持できる特性を持つ。やや早生で耐雪性が中、穂発芽耐性が難で寒冷地での栽培に適する。
キーワード 小麦、でんぷん、老化遅延、パン、うどん、DNAマーカー選抜
背景・ねらい 農研機構(東北農業研究センター)は、DNAマーカー育種によりアミロース合成を司る3つの酵素Granule-Bound Starch SynthaseI(GBSSI-A1,-B1,-D1)とアミロペクチン合成に関与する3つの酵素Starch Synthase IIa(SSIIa-A1,-B1,-D1)のうち、いずれもB1及びD1酵素の遺伝子を変異型としそれら酵素が欠失した小麦を開発した。日本製粉(イノベーションセンター)との加工利用に関する共同研究により、でんぷんの老化の進行が遅く、そのため加工製品が硬くなりにくい特性を持つことを明らかにし、Slow Staling Wheat(低硬化性小麦)と名付けた。そこで、東北地方に適応した低硬化性小麦品種を開発する。
成果の内容・特徴 1.「やわら姫」は、耐病性・諸障害抵抗性に優れる寒冷地向系統「盛系D-B004」を戻し親として連続戻し交配により育成されたGBSSI遺伝子全変異型(もち小麦)準同質遺伝子系統(SSIIaは全野生型)とSSIIa遺伝子全変異型(高アミロース小麦)準同質遺伝子系統(GBSSIは全野生型)を交配し、得られた後代より選抜されたGBSSI-B1、GBSSI-D1、SSIIa-B1、SSIIa-D1のみが変異型である品種である。
2.「ゆきちから」と比較して、出穂期と成熟期は同程度のやや早生種である。稈長は同程度であるが、穂数が少なく低収である(表1)。容積重は同程度であるが、千粒重は大きく外観品質に優れている(表1)。
3.播性程度は"V"で秋播性が強く、穂発芽性は"難"、縞萎縮病抵抗性は"強"、うどんこ病及び赤さび病抵抗性は"やや強"、赤かび病抵抗性は"中"である(表1)。
4.「やわら姫」は中間質である。「ゆきちから」と比較して製粉歩留、60%粉灰分は同程度だが、タンパク質含量とアミロース含量は低い。アミログラムの最高粘度は「ゆきちから」よりやや大きく、ブレークダウンは大きい。ファリノグラムの吸水量は「ゆきちから」より低いが、バロリメーターバリューは高い。また、エキステンソグラムの伸張度は短いが生地の力の程度が大きく伸張抵抗が強いため、「ゆきちから」より生地が強い(表2)。
「やわら姫」で焼いたパンは、焼成後1日目でも柔らかく、3日後においてもパンの硬化程度が緩やかで柔らかさが維持される(図1)。
5.「やわら姫」はでんぷんの老化が遅いため麺の柔らかさが維持され(図2)、製造1日後より3日後で、相対的に食感の官能評価が高くなる。
成果の活用面・留意点 1.寒冷地の平坦地、雪期間100日以下の地域に適する。
2.パン利用の場合は後期追肥を行い、うどん用に用いる場合は後期追肥を行わない。
3.実需試験により、混合(50%)利用でもパンやうどんの柔らかさが維持される効果が得られており、混合での利用も期待できる。
4.岩手県で産地品種銘柄(選択銘柄)に設定され、2020年播種で220ha普及である。
図表1 244511-1.png
研究内容 https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/tarc/2020/tarc20_s12.html
カテゴリ 育種 萎縮病 うどんこ病 加工 小麦 新品種 DNAマーカー 抵抗性 播種 品種

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