課題名 | d.地域条件を活かした健全な家畜飼養のための放牧技術の開発 |
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課題番号 | 2008010582 |
研究機関名 |
農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究分担 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構,北農研,集約放牧研究チーム (独)農業・食品産業技術総合研究機構,東北研,日本短角研究チーム (独)農業・食品産業技術総合研究機構,近農研,粗飼料多給型高品質牛肉研究チーム (独)農業・食品産業技術総合研究機構,九州研,周年放牧研究チーム (独)農業・食品産業技術総合研究機構,畜草研,山地畜産研究チーム (独)農業・食品産業技術総合研究機構,畜草研,放牧管理研究チーム |
協力分担関係 |
山口県農林総合技術センター 東北大学 日本ミルクコミュニティ (株)よつ葉乳業 北海道大学大学院 帯広畜産大学 石川県立大学 岩手大学 住友化学 広島県立総合技術研究所畜産技術センター |
研究期間 | 2006-2010 |
年度 | 2008 |
摘要 | 多様な飼料資源を活用した放牧技術を開発するため、1)主に公共牧場草地をターゲットに、窒素溶出がコントロールされる被覆窒素肥料を使用することにより、年1回の施肥でも年2回の慣行施肥よりも高い牧草の乾物収量が得られ、施肥回数の削減と約2割の減肥ができることを明らかにした。2)北海道東部の土壌凍結地帯における利用可能年限が未確定であったメドウフェスクを主体とする集約放牧草地について、良好な植生と生産力が7年間維持されることを農家放牧地において実証し、その永続性が十分であることを明らかにした。3)放牧期のとうもろこしサイレージ併給は、乳量水準を10,000kg程度まで向上させ得ることを示した。4)牛生ふんからの温室効果ガスの発生状況、放牧牛のふん排出回数と分布を明らかにし、加速計によるふん排出の検出法を開発するとともに、畑作酪農地帯での集約放牧導入のLCA結果から、地球温暖化負荷低減の可能性を示した。5)液化仕込み清酒粕の給与は、経産牛の日増体量増加、加熱時の肉汁損失低下、去勢牛の血中ビタミンB含量向上などの効果を示すことを明らかにした。放牧仕上げした経産牛肉と去勢牛肉を官能試験により比較した結果、サーロインでは去勢牛肉の評価が高く、ヒレでは同等であった。霜降り肉志向パネル(霜降り肉に対する嗜好の強い者をパネラーとする官能評価試験)では、ヒレ、サーロインともに去勢牛肉の評価が高く、赤肉志向パネルは経産牛を舎飼したヒレの評価が高かった。放牧仕上げにより、α-リノレン酸や共役リノール酸を多く含む牛肉となることを明らかにした。 高栄養牧草の利用による集約放牧酪農技術を開発するため、1)アンケートを通じて消費者が飲みたい牛乳の要件を探索した結果、消費者が好む牛乳のイメージは放牧牛乳と重なり、放牧牛乳のプレミアム化が可能であることを確認した。消費者が放牧牛乳を選択する際に重視する要件のうち、「国産飼料」、「青草採食」、「放牧に期待する成分・味」を特に差別化に有効な点として抽出した。2)放牧草から摂取するリノール酸等の脂肪酸量と乳中に含まれる機能性脂肪酸である共役リノール酸含量は、正の相関関係にあることを明らかにした。放牧牛乳で高値を示す香気成分の放牧期の変動を舎飼い期との比較において明らかにするとともに、放牧牛乳を原料としたチーズ中の機能性脂肪酸含量は、舎飼い牛乳由来チーズよりも高いことを示した。 公共草地資源の活用による日本短角種の放牧技術を開発するため、1)放牧肥育中における筋肉の成分変動をモニターするには、バイオプシサンプルの3-メチルヒスチジンを測定すれば、肉の呈味や機能性に関与する遊離アミノ酸やペプチド量を正確に評価出来ることを明らかにした。また、多量のビタミンEが牛肉中に存在すると、熟成で増加する甘い香りを持つある種のラクトンの生成が抑制されることを明らかにした。嗅覚センサーでは牛脂肪の品種差は識別できるが、放牧の有無については識別出来ないことを明らかとし、今後はGC-MSによる評価に重点を置くことにした。2)19年度に黒毛和種を主な対象として開発した発情同期化法は、放牧の日本短角種においても十分な効果を確認できたことから特許を申請した。さらに、日本短角種を借腹とした黒毛和種産子の放牧時の哺乳行動は日本短角産子と同程度で哺乳行動が低下する心配はないことを明らかにした。 遊休農林地等を活用した黒毛和種経産牛の放牧技術を開発するため、1)耕作放棄地放牧に適した導入草種や牧養力を予測するために、緯度・経度入力と草種選択で簡単に月別生産量が推定できるワークシートを開発した。優占種の異なる放牧草地では、野草の可消化養分総量(TDN)含量は50~60%で繁殖牛に適した水準であり、ススキとチガヤ優占草地の粗たんぱく質(CP)含量は8%をやや下回るが、随伴種がTDNおよびCP含量を適正値に近づける作用を持つことを明らかにした。また、群落高を測定することでおおよその草量推定が可能であることを示した。2)長野県御代田町における小規模移動放牧による周辺環境への硝酸態窒素負荷は、農業用水および暗渠排水の水質調査の結果から、少なくとも放牧地周辺の野菜畑と同程度かそれ以下であると考えられた。3)耕作放棄地等の低投入放牧草地に適した草種であるセンチピードグラスの被覆速度は、傾斜度がほぼ0度の時に最も速くなり、傾斜度の増加により遅くなるが、その程度は斜面方位により異なり、南側斜面では北側斜面の1/3の期間で被覆できることを明らかにした。 高栄養暖地型牧草を利用した肉用牛の低コスト周年放牧技術を開発するため、1)とうもろこし早生品種「ゆめちから」は、収穫適期である乾物率25~35%の期間が長く、その期間の茎葉TDN含量も高い。また、密植条件下でも耐倒伏性が強く、柔軟な作業スケジュールが組めることから、周年放牧牛の仕上げ肥育飼料として細断型ロールベーラ収穫体系に適した品種であることを明らかにした。2)イタリアンライグラスでは、超極早生品種(645kg/10a)と極早生品種(612kg/10a)は、早生品種(474kg/10a)に比べて、冬季に、収量が多く栄養価が高くなりすぎないため、近畿中国四国地域の繁殖牛に適していることを明らかにした。3)サイレージ用とうもろこしの親自殖系統「Mi101」は、中生の晩のセミデント種で、耐倒伏性に優れ組合せ能力が高く、春播き用および晩播・夏播き用の一代雑種の親系統として利用できることを明らかにした。とうもろこしの二期作栽培体系において、一期作目に極早生品種を導入して7月下旬に収穫し、二期作目の栽培期間を確保することが多収・高品質サイレージの生産に有効であることを明らかにした。放牧肥育牛における仕上げ肥育において、とうもろこしサイレージを乾物比約30%摂取させると、肉用種去勢牛はほぼ目標通りの日増体量(黒毛和種:0.95kg/日、褐毛和種:0.93kg/日)を実現できることを明らかにした。4)寒地での周年放牧技術開発のため、積雪地においてソルガムを用いた冬季放牧では、放牧牛の血中尿素窒素が5mg/dlまで減少することから補助飼料の給与や他の草地と組み合わせた放牧が必要であることを明らかにした。5)ブリザンタ「MG5」は暖地型牧草でありながら、夏季においても粗たんぱく質含量は10%以上、乾物生産性も400kg/10a/月以上であり、黒毛和種去勢牛は日増体量約0.6kgの良好な発育を示すことから、周年放牧に適した草種であることを明らかにした。 放牧牛の栄養要求量と摂取量の解明に基づく精密栄養管理技術を開発するため、1)豆科牧草を導入することにより、乳用育成牛の増体を指標とした草地生産性を改善した(日増体量で370g向上)。加速度計による放牧牛行動の省力的把握法と、放牧地草量の非破壊的かつ省力的推定方法を開発した。これらの手法とGPS、GISを組み合わせることにより、草量の変化に伴う放牧牛の採食場所の変化を地図上に示す方法を確立した。また、ヒト用歩数計を用いた放牧牛の採食行動把握法および搾乳牛の305日乳量から平均的な初回排卵・発情日を簡単に推測する手法を開発した。2)歩行速度と歩行傾斜角度を用いたエネルギー消費量の推定では、低速歩行時の消費量が過大評価されることから、低速歩行時のエネルギー消費に対応するための改良が必要であることを示した。 放牧導入が家畜の健全性と経営に及ぼす効果を解明するため、1)放牧牛の取扱いやすさの評価法として、人の接近に対する逃走開始距離測定法の標準化を検討した。対象牛の側方から時速約4kmで接近し、牛が逃走を開始するときの人と牛との間の距離を測定することを標準法として提案した。この方法で測定した逃走開始距離は、捕獲採血に対する行動反応や生理的なストレス指標との関連が高いことを明らかにした。2)アブによる牛白血病の伝搬を防止するため、アブの吸血活動を1週間阻害するピレスロイド剤を有効成分とした新規薬剤とその用法を開発した。搾乳牛は、暑熱状況下で牛舎から放牧地へ環境を変化させると初期にストレスを感じることを明らかとした。3)舎飼、放牧、運動負荷(放牧時の運動要因の抽出)の3つの飼養環境で肥育した肉の硬さやコラーゲン性状を比較したが、差異は認められず、放牧や運動により肉が硬くなることはないことを明らかにした。 |
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