アブシジン酸分解酵素遺伝子変異の利用によるコムギ種子の発芽抑制

タイトル アブシジン酸分解酵素遺伝子変異の利用によるコムギ種子の発芽抑制
担当機関 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所
研究期間 2006~2010
研究担当者 蝶野真喜子
松中 仁
関 昌子
藤田雅也
乙部千雅子
小田俊介
小島久代
川上直人
発行年度 2010
要約 日本のコムギには、「タマイズミ」などDゲノム上のアブシジン酸(発芽を抑制する植物ホルモン)分解酵素遺伝子に挿入変異を有する品種がある。この「タマイズミ」のAゲノム上の同祖遺伝子に欠失変異を併せ持たせた個体は「タマイズミ」より発芽が抑制される。
キーワード コムギ、アブシジン酸、分解、遺伝子変異、発芽
背景・ねらい コムギの収穫期には、梅雨や長雨による降雨が多く、穂発芽(穂の上での種子発芽)による小麦粉製品の品質低下が問題となっている。一方、種子発芽を抑制する植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)の量は、種子が吸水する過程で急激に減少し、種子は発芽する。このABA量の減少に関わるABA分解酵素(主にABA8'位水酸化酵素、以下、ABA8'ox)が機能を失えば、吸水後の種子内部でABAが分解されず、その結果、発芽が抑制される可能性がある。異質6倍体であるコムギには、3種のゲノム(A、B、D)が存在することから、コムギの種子で発現するABA8'ox遺伝子について、遺伝資源および変異原処理系統から各ゲノム別に変異体を検出し、次いで、それら遺伝子変異を併せ持つ個体を作出する。得られた変異体の解析を介して、ABA分解活性の低下によるコムギ種子の発芽抑制の可能性を調べる。
成果の内容・特徴
  1. コムギ種子で発現するABA8'ox同祖遺伝子群(TaABA8'ox1A、および、TaABA8'ox1BTaABA8'ox1D、以下、TaABA8'ox1sと表記)には、終止コドン近傍に保存性の低い領域がある。この保存性の低い領域を増幅するプライマーペアを用いてPCRを行うと、各ゲノム由来のTaABA8'ox1sを長さの異なるバンドとして個別に検出できる(図1、2)。
  2. 上記プライマーペアでPCRを行うと、農林登録品種(160品種)のうち、23品種でTaABA8'ox1Dに由来するバンドが検出されない(図2)。また、遺伝資源を対象とした解析から、その特徴は品種「新中長」に由来すると推察される。
  3. TaABA8'ox1Dが増幅されない品種では、TaABA8'ox1Dの第5エクソンに挿入配列があり、フレームシフト変異が起きている(図1)。このフレームシフト変異により、ABA8'oxの基質認識に関わる部位のアミノ酸配列が変化する。
  4. TaABA8'ox1Dが正常な品種「ゼンコウジコムギ(赤粒)」と、TaABA8'ox1Dに挿入変異を有する品種「タマイズミ(白粒)」との半数体倍加系統を用いた解析では、TaABA8'ox1D挿入変異のみでは種子発芽を抑制する効果は認められない(表1)。
  5. 「タマイズミ」のガンマ線照射系統(M2世代、3,423個体)から見いだしたTaABA8'ox1A変異体(TaABA8'ox1A欠失変異とTaABA8'ox1D挿入変異を併せ持つ個体)では、「タマイズミ」より発芽が抑制される(図3)。
成果の活用面・留意点
  1. 本プライマーペアを利用することにより、TaABA8'ox1sに起きた遺伝子変異の検出が容易になり、ABA分解活性の低下を介した発芽しにくいコムギの作出、さらには、穂発芽耐性が向上したコムギの作出につながる可能性がある。
  2. TaABA8'ox1A欠失変異単独の発芽抑制効果について、さらに検討する必要がある。
図表1 234419-1.png
図表2 234419-2.png
図表3 234419-3.png
図表4 234419-4.png
カテゴリ 遺伝資源 小麦 品種

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