課題名 | 農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発 |
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課題番号 | 2014025625 |
研究機関名 |
農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究分担 |
太田健 栂村恭子 |
協力分担関係 |
福島県農業総合センター 栃木県農業試験場 栃木県畜産酪農研究センター 茨城県農業総合センタ- 生物研 農環研 (株)太平洋セメント (株)DOWAエコシステム 信州大学 岩手大学 |
研究期間 | 2012-2015 |
年度 | 2014 |
摘要 | 農作物等における放射性物質の移行要因の解明と移行低減技術の開発に関しては、 a) カリ施肥の有無を含む三要素試験の結果から、無カリ区では玄米への放射性セシウムの移行量は大きいが、土壌の交換性放射性セシウムが経年的に低下することを明らかにした。一方、基肥に標準の3倍量のカリを継続施用した区の交換性カリ含量は年ごとに大きくなり、玄米中放射性セシウム濃度はより低下することを明らかにした。 b) 放射性物質により汚染された土壌においては全放射性セシウムに対して数%から最大50%の放射性セシウムが粒子状で存在していることを明らかにした。 c) 水田土壌において液相に溶出する安定セシウムは、NH4濃度と酢安抽出安定セシウム濃度に支配されていることを明らかにし、この時湛水は、NH4濃度を高める一方で、酢安抽出安定セシウム濃度を低減させることを明らかにした。また、水稲幼植物の放射性セシウム吸収量は、NH4の増肥によって増大したが、NO3は吸収量を増やさないことを明らかにした。 d) 土壌攪拌・除去(平成25年農工研方式)を用いて除染した水田における除染後の残効試験から、玄米放射性セシウム濃度は、前年の除染及びゼオライト施用の効果が認められることを明らかにした。 e) 玄米放射性セシウム濃度は、窒素増施によりやや高まる傾向を認めた。放射性セシウム吸収量と子実放射性セシウム濃度の関係を秋ソバやダイズと比較したところ、水稲は子実重が他の2作目より大きく、また放射性セシウムの子実への分配率がダイズより低いため、子実蓄積係数が最も低くなることを明らかにした。 f) 金雲母施用区では、土壌溶液のカリウム濃度及び土壌の交換性カリ含量が高く維持され、玄米放射性セシウム濃度が低減されることを明らかにした。 g) 福島県伊達市のダイズ現地試験では、平成25年と同様に播種時の交換性カリ含量が30mg/100gで子実への放射性セシウムの移行低減を確認した。カリ低濃度区では子実の放射性セシウム濃度が高まる傾向にあること、また、塩化カリ多施用により交換性カリ含量70mg/100gまで高めても収量性に問題はないことを明らかにした。 h) ダイズ栽培において、塩化カリ連用による吸収抑制対策の場合も概ね収量性には問題ないこと、表土剥ぎ及び客土による除染後圃場においてもダイズの収量性には問題がないこと、硫酸カリ増施による放射性セシウムの移行係数の低減効果を確認した。子実の放射性セシウム濃度は栄養成長期初期(V2期)より開花期の地上部の放射性セシウム濃度との相関がより高いことを明らかにした。 i) 農業生物資源ジーンバンクのダイズ遺伝資源の元素分析により、ダイズ子実のセシウム蓄積性に遺伝的多様性が存在することを明らかにし、異なる栽培条件下でも安定して蓄積性が異なる候補系統を得た。 j) 吸収抑制対策(土壌の交換性カリ含量が30mg/100g以上に改良した上で標準施肥)によるソバの放射性セシウム濃度の低減効果を確認した。本対策は表土はぎ取り、客土を行った圃場における営農再開時にも有効であるとことを明らかにした。 k) コムギ遺伝資源の子実の放射性セシウム濃度は、昨年度と同様に低い系統と高い系統の間で約10倍の差異を認めた。福島県の主力品種「ゆきちから」は2か年の試験を通じて放射性セシウム濃度が低い傾向にあること、組換え自殖系統群では、セシウムを含む多くの元素で遺伝的な分離が存在することを明らかにした。 l) 異なる耕うん法を含む草地更新作業を実施した試験において、耕深が深く、砕土率が高い耕うん法において牧草の放射性セシウム濃度が低いことを確認した。耕うん程度が不十分で移行抑制効果が低かった草地に対し、簡易な追加更新を行っても、牧草の放射性セシウム濃度は低下しないことから、再除染法として適さないことを明らかにした。 m) 無線トラクタに装着できるブロードキャスターを改造し、急傾斜草地で除草剤を散布できるブームスプレイヤを試作した。土壌中の交換性カリ含量が低い場合には、無線トラクタ用ロータリ耕による牧草への放射性セシウムの移行低減効果が小さくなることから、更新時のカリ施肥が重要であることを明らかにした。耕起不能地においてカリ施肥による移行低減の可能性を示した。 n) 草地更新のモデル試験で、汚染リターにカリを添加することにより牧草への放射性セシウムの移行を抑制できること、浅い耕深ではリターを土壌に層状に埋設するより混和する方が牧草の放射性セシウムは低くなる傾向にあることを明らかにした。平成25年に1番草が暫定許容値を超過した草地の2番草の調査により、土壌(0~15cm)の交換性カリ含量が更新時の目標値の30~40mg-K2O/100gより高い場合においても、牧草中放射性セシウム濃度が暫定許容値を超過する事例があることを認め、このような事例においては土中に存在する汚染リターの位置と放射性セシウム濃度が影響することが明らかとなった。そのため、超過要因の解析には土壌断面調査が重要であることを明らかにした。 o) 草地更新によって除染をした草地の維持段階において、土壌中交換性カリ含量低下により牧草中放射性セシウム濃度が再び暫定許容値を超えることがあり、カリ持出量相当のカリ施肥の継続が必要であることを明らかにした。 p) イタリアンライグラスでは土壌条件が異なると放射性セシウムに対する品種の反応が異なる可能性があること、また、沈着により直接汚染されたライムギのウェザリング半減期(Tw)はイタリアンライグラスよりも短く、様々な草種のTw既報値の下限値に近いことを明らかにした。 q) 飼料用イネでは移植時期を遅くすることで、放射性セシウム濃度が低減すること、栃木県の水田では「ふくひびき」の放射性セシウム濃度が供試品種で最も低かったが、福島県の水田では明瞭な品種間差は認められないこと、また、植物体の放射性セシウム濃度は平成25年とほぼ同程度であることを明らかにした。 r) イネ科牧草の中では、トールフェスクがオーチャードグラスに比べて放射性セシウム濃度が低く、番草間の変動も小さい低吸収草種として有望であることを明らかにした。 s) 安全で高品質な自給飼料生産技術の実証研究(福島市土湯)では、飼料用トウモロコシの収穫物中放射性セシウム濃度は平均1Bq/kg(水分80%換算値)で、汎用型飼料収穫機によるダイレクトカットベール梱包を組み合わせた収穫梱包作業体系により放射性セシウム濃度が十分低い自給飼料生産が可能であることを明らかにした。また、収穫時の土壌由来の放射性セシウム混入は、10cm程度の刈り高さを確保できれば危険は低いことを明らかにした。 t) 家畜が摂取した放射性セシウムの体内への吸収程度を化学的な分析で推定するために、塩化セシウム溶液による抽出係数を求めた。放牧草、牧草サイレージに含まれる放射性セシウムの抽出係数と牛乳への移行係数には、直線的な関係が見られ、抽出係数の測定により畜産物への移行性を評価できることを明らかにした。また、牧草に比べて土壌は抽出係数がきわめて低いものが多いが、高いものも存在することを明らかにした。 u) ブルーベリー及びクリ果実、並びに植栽土壌の放射性セシウム濃度は昨年よりもさらに低下し、両樹種ともに果実の移行係数が低下し続けていることを確認した。事故発生4年目においても、事故発生年に受けたフォールアウトにより樹体に蓄積された放射性セシウムが果実へと移行していることを確認した。 v) リンゴ園地(福島果樹研)においては、異なる地表面管理により土壌の放射性セシウム濃度に差を認めたものの、リンゴ果実の放射性セシウム濃度には地表面管理の影響は認められないことを明らかにした。 w) 福島果樹研においてフォールアウト後に新植したクリ、ウンシュウミカンの果実と植栽土壌の放射性セシウム濃度を調査した結果、クリ果実への移行係数は0.00067、ウンシュウミカン果実では0.00029と低い値であることを明らかにした。 x) クリ樹の剪定は、果実の放射性セシウム濃度を低減させる効果がないことを明らかにした。ただし果実の放射性セシウムは、事故後数年間では、土壌由来ではなく、樹体に付着した放射性セシウムに由来することを示唆した。 y) 茶において放射性セシウムの葉面及び土壌からの吸収能を評価するために行われた安定セシウムの施用実験(葉面散布、土壌施用)において、施用後3年経過しても土壌からの吸収は確認されないことを明らかにした。 農作物の加工工程等における放射性物質の動態解明に関しては、 a) 放射性セシウム測定用の標準物質として、玄米は実際の測定対象試料のうち最も多く測定されており、かつ、保存性、均質性が高く、開発した試料調製法による標準物質試料として適していることを複数の試験所間比較で確認した。 b) うどん乾麺製麺時の乾燥処理は、乾麺の茹で調理における放射性セシウムの茹で湯への移行を抑制しないこと、炊飯調理での放射性セシウムの動態には、とう精の有無は影響を及ぼすが、とう精の割合は影響しないことを明らかにした。 放射性物質の低吸収作物及び高吸収植物の探索に関しては、 a) 水稲の品種間の安定セシウム吸収能の違いはカリ吸収能と関係し、特に低カリ土壌では品種間差異は拡大すること、カリ吸収による土壌溶液中カリ濃度の低下がセシウム吸収を促進する要因となっていることを明らかにした。 b) コシヒカリタイプではセシウムの吸収を低減させる遺伝子座は第5及び第12染色体に存在することが予測された。また、重イオンビームの照射により作出したふくひびき突然変異系統は放射性セシウム濃度が40%以上減少していることを現地試験において明らかにした。 c) 水稲においてセシウム高蓄積品種は低蓄積品種に比べて根量が多くなることを明らかにした。また各種カリウム輸送体の発現解析を行ったところセシウム高蓄積品種は低蓄積品種に比べてHAK1及びK1.1の発現量が多いことを明らかにした。 |
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