農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発

課題名 農作物等における放射性物質の移行動態の解明と移行制御技術の開発
課題番号 2015027885
研究機関名 農業・食品産業技術総合研究機構
協力分担関係 福島県農業総合センター
岩手大学
京都大学
福島大学
茨城県農業総合センター
埼玉県農業技術研究センター
千葉県農林総合研究センター
神奈川県農業技術センター
産業技術総合研究所
福島県環境創造センター
研究期間 2012-2015
年度 2015
摘要 農作物等における放射性物質の移行要因の解明と移行低減技術の開発に関しては、
a) 玄ソバへの移行係数は平成25年以降低下しており、土壌の交換性カリ含量の上昇と交換性セシウム濃度の割合の低下が関係してい ることを明らかにした。玄ソバへの137Csの移行には土壌の交換性カリ含量に加え、カリウム、マグネシウム、カルシウムのバランス が関係していることが示唆され、マグネシウムが多い圃場で移行係数が高い地点が認められた。
b) 平成25、26年と同様に平成27年も播種時の交換性カリ濃度が30mg K2O/100g以上の水準において、カリ施肥なし、又は慣行施肥と比較してダイズ子実への放射性セシウムの移行が有意に低下した。土壌中のカリ含量が低い場合、交換性放射性セシウムは増加する傾向を示した。
c) 除染後農地では除染実施の時期が遅いほど、除染作業によって一旦裸地になっても大型の多年生雑草や木本が圃場内に増加してい ることを明らかにした。また、除染した畦畔に残存している根茎などの地下繁殖体が圃場内の多年生雑草繁茂の一因になっていることが示唆された。
d) 川俣町山木屋の除染後傾斜畑で、草種比較と土壌侵食モニタリング(a. ペレニアルライグラス+ケンタッキーブルーグラス+シロクローバー区、b. ヘアリーベッチ区、c. 裸地(放任)区)を平成27年秋に開始し、カバークロップによって土壌及び放射性セシウムの侵食量が抑制できることを明らかにした。
e) 農業生物資源ジーンバンクの「世界のダイズ」及び「日本のダイズ」コアコレクション内のセシウム高蓄積・低蓄積候補系統や、 既存の遺伝解析集団の両親系統などを用いて、土壌の性質が異なる複数の圃場で栽培試験を行い、栽培条件に関わらず安定して種子中セシウム濃度が高い系統と低い系統を選抜した。
f) 湛水期間が異なる水管理方法を平成26年までと逆にした場合、湛水期間を短縮した試験区ほど、水稲のセシウム濃度の前年比が低 下し、平成26年度までの水管理履歴が重複的に影響することを示唆した。幼植物ポット試験では、圃場試験と異なり、湛水期間中に放射性セシウム吸収が抑制された。
g) 金雲母の施用により、ポット・圃場試験のいずれにおいても土壌溶液のカリウム濃度が高まり、移行低減効果が高いことを明らか にした。
h) 放射性セシウムを吸収しやすい「北陸193号」地上部におけるカリウム集積速度は、分げつ期から幼穂形成期までの期間がもっとも高く、生育ステージが進むと低下したのに対して、137Csの集積速度は出穂期前後まで変化が小さく、カリウムとは異なることを明ら かにした。
i) 除染困難草地を想定した未更新採草地での平成23年からのカリ増施や石灰施用の連用試験では、牧草中放射性セシウム濃度に対し カリ増施の効果が認められ、カリ増施に加え苦土石灰施用にもい効果があることを明らかにした。その一方で、カリ増施量に応じた土壌交換性カリ含量の増加が見られない土壌があり、新たな対策技術の開発が必要であることを示唆した。
j) 暫定許容値を超過する除染済み草地の対策として、早春の堆肥施用では当年の0~15cm深の交換性カリ含量を高く維持でき、牧草中放射性セシウム濃度は低く維持されること、また、草地更新時のゼオライトの施用は、草地更新直後の交換性カリ含量の維持に有効であることを明らかにした。
k) 草地更新時の耕耘作業にあたっては、耕深を深く、砕土率を高くすることが放射性セシウム濃度低減に有効であることが草地更新 後2年目においても確認された。
l) 草地更新後3年目に牧草が暫定許容値を超過した草地に、早春施肥時からカリ3倍増施を行うと、顕著に放射性セシウム濃度が低下 し、カリ増施が有効な対策であることを認めた。また、土壌中の交換性カリ含量の増加が見られ、カリ収支もプラスとなることから、カリ持出量を考慮したセシウム濃度低減に有効な土壌交換性カリ含量レベルの維持が重要であることを示唆した。
m) 汚染堆肥の処分を放牧地への表面散布により解決できるか検討した結果、放射性セシウム濃度4,388(134Cs+137CsBq/kgDM、水分33%)の堆肥、2.2t/10a(現物)施用(面積あたりの施用放射能は6,500Bq/m2)により牧草中放射性セシウム濃度は上昇し、1番草と2番草で20Bq/kgを超えることを明らかにした。
n) 避難指示解除区域の牛舎を、清掃前、清掃直後、数ヶ月後にガンマカメラを用いて撮影し、牛舎内の飼槽や牛床にたまっている土 ぼこり、落葉、雨漏りした牛床部分にこびりついている汚れから比較的高い値の放射性セシウムが検出され、特に屋根から落下したコケには非常に高い放射性セシウムが含まれていたことから、これらを踏まえた牛舎の清掃に関するマニュアルを作成した。
o) 飼料用トウモロコシ-イタリアンライグラス二毛作体系における放射性セシウムの移行係数の変化は、カリ収支が常にマイナスで 交換性カリが経年的に減少している堆肥を施用していない区では平成24年以降上昇傾向にあり、その傾向はトウモロコシで顕著であった。一方で堆肥区の交換性カリ含量は概ね30mg/100g以上でほぼ安定しており、移行係数は小さく維持されることを明らかにした。
p) 平成23年から調査を行っている採草地(未更新及び平成23年秋簡易更新草地)、シバ草地における植物中放射性セシウム濃度は、 事故後2年間は著しく減少したが、平成25年以降の変化は小さく、標準施用の2倍量のカリ施肥(10kg/10a年3回)を行った場合は経年 的な減少が見られることを明らかにした。
q) 平成23年に不耕起定植した多年生イネ科資源作物の収穫物(地上部)に含まれる放射性セシウム濃度は平成23年に比べて平成24~26年は減少すること、また、地下茎部・根部及び浅層土壌の放射性セシウム濃度は高い値であることを明らかにした。
r) 供試草地内では2年の調査を通じて斜面下部の牧草中放射性セシウム濃度が高い傾向が認められた。また、土壌放射性セシウム濃度の水平分布は経年的に平準化する傾向を示し、垂直分布は尾根で下方移動する傾向を示した。
s) 安定セシウムの施用実験(葉面散布、土壌施用)において、5,360μg/m2の施用量では4年経過しても土壌から新芽への吸収移行は 確認されないことを明らかにした。また、チャにおける放射性セシウムの移行係数を示した。
農作物の加工工程等における放射性物質の動態解明に関しては、
a) これまでに開催した5回の技能試験では、報告値と測定値の室間標準偏差に相当する正規四分位数範囲(NIQR)の範囲は、参照値とその拡張不確かさの範囲と一致したことから、国内の検査機関では概ね妥当な放射能測定が行われており、試験に用いた玄米試料は、均質性・安定性が高いと判断した。
b) 玄ソバの磨き処理は、玄ソバ表面に付着した外部汚染は除去可能だが、水洗い処理は内部汚染の除去には効果が低いこと、ソバ粉 の濃度は玄ソバの濃度の0.6~0.8倍となり、ソバ生麺の茹で調理により約30~50%の放射性セシウムが麺から除去され、茹で麺の放射性セシウム濃度は生麺の1/2以下となることを明らかにした。
放射性物質の低吸収作物及び高吸収植物の探索に関しては、
a) 重イオンビームの照射による低蓄積性系統の開発では、「ふA337-1」は、試験地の違いや低カリ条件など、どの条件でもある程度 のセシウム吸収低減効果が期待できることが分かったが、やや収量性は劣る傾向があることも明らかになった。
b) 東北研(盛岡)の試験用水田において、タカナリの玄米セシウム濃度がコシヒカリより高まるメカニズムとしては、タカナリはコ シヒカリに比べて土壌からイネ地上部に移行するセシウム量が幼穂形成期以降に増加すること、玄米へのセシウム分配率が高いこと、またこれらの傾向が低カリウム条件で強まることなどが要因として考えられることを明らかにした。
農地土壌からの放射性物質の地下浸透や農地外への流出等の実態解明に関しては、
a) これまで迅速な測定が困難であったため池底質の放射性セシウムの鉛直分布を対象とした新しい測定機器を外部機関と連携し開発 した。
b) 前処理方法の違いによる放射性物質濃度測定値の変動を明らかにするとともに、水中RCsの前処理法・分析法を比較検討した。蒸発法、ラドディスク法(3M)、PB法(産総研)の比較では、一部でバラツキが見られたものの概ね誤差範囲であった。また、硝酸の添加の有無の影響は、高精度(RSD2.5%)で測定した場合に添加有りの方の測定値がやや高い傾向にあったが、通常の測定(RSD10%)では差 が見られなかったことから、測定値への影響は小さいと考えられる。
c) 阿武隈高地の主に林地を集水域に持つ農業用貯水池において放射性Csの収支の検討を行い、調査期間における貯水池の浮遊物質と137Csの収支をみると、どちらも流入が過多となっており、浮遊物質で9割弱、137Csで8割程度が貯水池内に堆積することを推察した。
d) 放射性物質が粗粒より細粒の土粒子により多く吸着することから、粒径ごとに浮遊物質の生産及び移動を推定するモデルを開発し た。このモデルを、流域を対象とした分布型水文モデルに組み込み、河川中の浮遊物質とともに移動する放射性物質の時空間的変化を評価した。
e) 濁水モニタリングによる農地への放射性物質流入抑制に向けたマニュアル「濁度の連続測定を利用した水中の放射性セシウム濃度 予測・警報システムマニュアル」を作成し、公表した。

このほか、
a) 平成26年から平成27年のイノシシ出現頻度の増減は、昨年同様に避難指示の有無と一致せず、それ以外の要因により強く影響され ていること、また、出現時間帯についても避難指示の有無と一致しないことを明らかにした。
カテゴリ 病害虫 イタリアンライグラス 加工 栽培技術 栽培条件 雑草 さやいんげん 除染技術 飼料用作物 水田 施肥 そば 大豆 低カリウム とうもろこし 二毛作 播種 繁殖性改善 水管理 モニタリング

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