課題名 | a.気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発 |
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課題番号 | 2006008514 |
研究機関名 |
農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究分担 |
農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター 暖地温暖化研究チーム 農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 カンキツグリーニング病研究チーム 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 畜産温暖化研究チーム 農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 果樹温暖化研究チーム 農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター 寒地温暖化研究チーム 農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター 寒冷地温暖化研究チーム |
協力分担関係 |
北海道大学 気象庁・気象研究所 茨城大学 富山県農業技術センター (独)農業環境技術研究所 広島県農業技術センター・果樹研究所 沖縄県農業研究センター 新潟大学 東京工業品取引所市場構造研究所 (独)家畜改良センター |
研究期間 | 新規2006-2010 |
年度 | 2006 |
摘要 | 気候温暖化に伴う環境変動については、(1)大気-積雪-土壌凍結系観測により、1980年代の中後半から十勝地方の土壌凍結深が減少しており、その要因は初冬の積雪深増加時期の前進であり気候変動と関係すること、土壌凍結深の多少は下層土壌の物理環境に影響することを解明した。(2)降水変動による大豆の出芽遅延の発育速度への影響は小さいことを見出した。北海道のオホーツク高気圧型冷夏では、水稲の潜在生産力は低下しないことを示した。気象温暖化がもたらす果樹生産阻害については、(1)ぶどう「安芸クイーン」のアントシアニン合成は、アブシジン酸(ABA)生合成阻害や遮光等の低糖度処理で抑制されることから、ぶどうの着色制御にはABAと糖が重要な役割を果たすことを明らかにした。(2)りんごのアントシアニン合成はMdmybA遺伝子が誘導し、低温処理やUV照射処理など着色を促進する処理で発現が増大することを明らかにした。(3)うんしゅうみかんの落果率は、着果負担が大きいほど高くなる傾向が認められた。気温の上昇と生理落下との関連については、+2℃の温度上昇は生理落果時期を早めたが、最終的な落果率に差はなかった。ジベレリン(GA)処理は+2℃処理で生理落果を抑制する傾向が見られた。また、年平均気温が2℃異なる地域間で「興津早生」は温度が低い地域において母枝の乾物率が高く、花芽率も高かった。(4)温暖化条件での休眠打破を可能とする休眠打破剤の開発については、鉢植えの2年生日本なしで、過酸化水素の3%と0.5%で休眠打破に効果があることを認めた。(5)高温下でも着色容易なりんごを育成するために、収穫2ヶ月前に一重新聞袋で遮光したりんご果実を恒温室内で光照射し、生成するアントシアニン量を測定する簡易着色評価法を開発した。(6)ぶどうの培養非形質転換体をNaCl処理することによって、反応は低いもののスペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子の発現とスペルミジン含有量の増加を認めた。(7)西洋なしにスペルミジン合成酵素(SPDS)遺伝子を導入し過剰発現させると、NaCl、マンニトール、硫酸銅の複数のストレスに対して耐性を示した。ポリアミンの代謝系を制御することで温暖化がもたらす各種ストレス耐性が付与できる可能性を示唆した。カンキツグリーニング病については、(1)カンキツグリーニング病の媒介昆虫であるミカンキジラミの成虫生存期間は10℃以下では1ヶ月以内に、12.5~0℃の変温条件では1ヶ月程度に短縮するが、12.5~5℃では2ヶ月以上生存することを明らかにした。(2)ミカンキジラミの3令幼虫は罹病樹を72時間、4,5令幼虫は24時間吸汁すれば、病原細菌を高濃度に保毒した成虫に発育することを明らかにし、保毒成虫の簡易作出法を開発した。また、カンキツグリーニング罹病ニチニチソウの成葉主脈から病原細菌の高純度ゲノムを抽出する条件を確定した。(3)発病程度比較のため、シークワーシャーの33系統を収集し、育成した。(4)カンキツグリーニング病原細菌は、ぽんかん苗木中で5℃では少なくとも10週間は生存できることを明らかにした。(5)病原細菌のゲノムの未知領域を増殖し、6kbの新規塩基配列を決定した。(6)LAMP法で増幅したDNAを染色するため、染色色素をパラフィンで封入したマイクロカプセルを作成した。密閉状態で病原体DNAを増殖し、特異的に染色できる色素の濃度を明らかにした。(7)育成したかんきつ類のうち、「沢田いよかん」と「福岡在来すだち」はカンキツグリーニング病抵抗性である可能性が高いことを明らかにし、両品種に加え、いよかん4系統、すだち3系統を抵抗性の確認と評価のため養成した。玄米の品質に及ぼす温暖化の影響については、(1)イネ登熟期の高温による胴割れ発生に関して、米粒内部構造の品種間差と胴割れ発生に関与する遺伝子領域を確認した。また登熟初期の水温が低いほど、登熟期の葉色が濃いほど胴割れ率が低下することを示した。(2)群落における日射伝達を表現する簡単なモデルを作成し、イネの発育にともなう放射特性値の変化を関数化した。これらを用いることで、イネ群落の日射透過率とアルベド、さらに日射吸収率を精度良く求めることができるイネの形態変化を考慮した簡易な日射伝達モデルを作成した。(3)高温登熟障害等で発生する玄米の充実不足の指標値を、画像解析により玄米横断面の輪郭の曲率を算出することで抽出できた。この指標値により、高温がもたらす充実不足の程度やその品種間差異の評価が可能である手法を開発し、登熟期の高夜温は胚乳細胞の拡大阻害を介して玄米1粒重を小さくすることを明らかにした。暖地性害虫類の北上予測については、(1)アブラムシ類の有翅虫出現に産仔前の日長が最大影響を及ぼすこと、東北農研圃場におけるコナガの発生が過去20年間で早期化していることを明らかにした。(2)暖地で栽培される暖地型イネ科牧草や芝草の新病害として、バミューダグラス斑点病、パラグラス斑点病、セントオーガスチングラス黒穂病を病名登録し、ローズグラス褐点病の病原同定を行った。これらの病原菌は30℃前後でよく生育することから、将来の温暖化により発生増加が予測されることを明らかにした。これらの成果をインターネット上に画像データベースとして公開した。温度やCO2濃度の上昇に伴う気象生態反応の解明とモデル化については、(1)温暖化影響を圃場レベルの水田で解析するために開放系水温上昇装置を開発し、イネの出穂早期化、乾物収量の増加、水田からのメタン放出量の増大を確認した。(2)高濃度CO2下の窒素吸収パターンを解析し、イネでは老化との関係を示唆する特徴的な変化を認めた。また、大豆では乾物生産との高い相関を確認した。(3)作物の温度ストレスに関与する生体分子(アクアポリン)の機能解析のために、細胞膜と液胞膜の水透過率を分離・評価する計測法や細胞pH測定法を開発し、さらにイネアクアポリン遺伝子の形質転換体を作出した。畜産への影響については(1)泌乳牛において夏季高温環境下では、直腸温度が上昇し血漿中の還元性因子であるSH基、ビタミンC濃度が低下し、酸化生成物である過酸化脂質濃度(TBARS)が増加することを明らかにした。また、高温環境により卵管上皮細胞、血中リンパ球および初期胚における各種ストレスマーカーが変動することを明らかにした。(2)高温期の妊娠後期、分娩前にはTDNが通常の67%よりも高い69%程度の栄養価の高い飼料を給与することで、分娩前のエネルギー充足率を改善できることを明らかにした。(3)温湿度と生産性をパラメータとした回帰式を作成し、気候変化メッシュデータを用いて高温環境が育成牛の飼料摂取量、日増体量、飼料効率等の生産性に及ぼす影響を予測した。2060年時点の生産性は北海道では現在と近似するものの九州では温暖化により低下するという結果を得た。(4)インビトロガス培養法により反すう家畜からのメタン発生量を簡易に推定できることを明確にした。この成果は日本のほか多種多様な飼料資源で牛が飼育されている開発途上地域等での温室効果ガスソースデータベースの構築に寄与する。温室効果ガス発生等に関しては、(1)北海道空知地方の積雪泥炭地帯では、湿原の農地化で温室効果ガス発生量が増加したこと、農地では復元・転換初年目の水田や畑で発生量が少ないことを解明した。(2)積雪の物理性の推定手法開発を進めるとともに、融雪流出により河川水等に溶存して移流するCO2量が流域全体の土壌呼吸量の数十%にもなることを見出した。(3)作物残さを高温・高水分で土壌培養するとN2O発生が1日後と45日後の2回起きること、土壌凍結融解後のN2O発生は高水分条件でのみ起こることを見出した。(4)美唄湿原ではササ繁茂抑制に効果のある灌漑法を提示し、釧路湿原では富栄養化等がハンノキ等の増加要因であることを示した。 |
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